岬け家訓第151条……
のちに、「校庭真っ黒事件」とよばれることとなる、この怪現象は、時間にして一時間もたたず、こうして収束した。
とくになにか被害が出たわけでもなく、大きな混乱もなく、ただふしぎなことが起こったというだけの、怪現象。
ただ、ミサキ小学校の生徒の中で、わたしたち七人は、先生たちにこっぴどくしかられることになった。
勝手に校庭に出たことは、穴が消えた時点でバレた。
怜央くんからシオン先輩まで、ずらーっとならべられ、各学年の先生たちから、いっせいに雷を落とされた。
シオン先輩なんかは、「先生に怒られたのは、はじめてです……」って、そうとう落ち込んでたなあ……。
わたしは慣れっこだったので、すずしい顔でやりすごしたけど……それよりも、やっぱり。
レーコさんが消えてしまったことのショックは、大きかった。
今なら、シオン先輩がロックとはなれたくないって、言っていた気持ちがわかる。
というか、すごいよ。今までの卒業生。
こんなに身近に、六年間もいた相手と、はなればなれにならなければならないのに、ミサキ小学校を卒業していったんだから。
わたしなんて、一年にも満たないのに、これだけのショックを受けてる。
秋が深まり、風が身を切るように冷たくなってきたころ。
わたしは、岬けの旧家の、屋根裏部屋への階段をのぼっていた。
家の中も、そろそろかなり寒くなってきたので、暖房を出そうか、という話になって、リビングにあるこたつを使ってみようとみんなで試行錯誤していた。
リビングのこたつは、「掘りごたつ」というやつで、たたみの床のこたつのテーブルの下部分が、足を落として座れるように、ごそっとなくなっている。
ヒーターが壊れていたから、新しいものを買ってきて、こたつ用のふとんを押し入れからひっぱりだしてきて……と、わたしの家は現在、ちょっと大いそがしだ。
こたつの中にもぐりこんで(わたしひとりが、すっぽり入れるくらいのスペースがある!)おとうさんに怒られたりしたけど、そのおわびとして、なかなか見つからずに困っている、ふとんカバーをさがしに、こうして屋根裏までやってきたのだ。
階段をのぼりきり、真っ暗な屋根裏部屋で、電気のスイッチをさがす。
入って左側だったから……左手をのばして……。
ガッシャーン!
スイッチをさぐりあてる前に、左手がなにかにぶつかり、派手な音がひびいた。
えっ?
わたしはあわてて、今度こそ電気のスイッチを見つけて、カチリと押しこむ。
あいかわらず、あまりものの置かれていない空間。
その床に、青銅の手鏡が、こなごなに割れて落ちていた。
こ、これって……。
「岬け家訓第4条……」
言い終わる前に、背中をぽんと押される。
「『きみの後ろに黒い影』……ってな」
ふりむくと、その黒い影は、笑っていた。
ふるめかしいけど、全然ダサくないセーラー服を着て、ぷかぷかと宙に浮いたまま、長い黒髪のさきっちょをざぶとんみたいにして、あぐらをかいている。
わたしは、有無を言わさず、思いきり抱きついた。
「レーコさん……!」
めんどくさそうに笑いながらも、レーコさんはわたしをよしよしと抱きとめてくれた。
「はあ~~~どうなってるんだよ、まったく。アナの話じゃ、あと30年は封印されたままだって聞かされてたのに。おまえは封印破りの才能があるんじゃないか?」
わたしは、抱きついたまま、レーコさんの関節を、がっちりとしめあげる。
「痛い痛い痛い痛ーい! なにすんだバカっ!」
「勝手にいなくなったバツ!」
「ギブ! ギブだから! やーめーろー!」
コブラツイストから、四の字固め……レーコさんがバンバンと床を手でたたくけど、死神相手だから、聞く耳持たない!(人間相手にこんなことしちゃだめだよ?)
床に転がって、ぜーぜーと息をしているレーコさんを、わたしはふん! と胸を張って見下ろしていた。
「優依ぃ……覚えてろよ……」
「レーコさんこそ、今度いなくなったりしたら、こんなもんじゃすまないからね」
マジで……? とおびえるレーコさん。
「そうだ! 岬け家訓第151条!」
わたしが声を張り上げると、レーコさんはおどろいて起きあがる。
「おいおい。家訓は150条までしかないだろ?」
「いま作った!」
「なんじゃそりゃ」
笑いながら、レーコさんはわたしにつづきをうながす。
「『再会のときも笑顔であれ』!」
そう言ったとたん、わたしのからだから、すーっと力がぬけていく。
でも、立てなくなったり、やる気がなくなったりするような感じではない。
とても心地いい、開放感みたいな。
「優依は、家訓をちゃんと、自分の言葉にしたんだな」
レーコさんが、うーんとのびをして、宙に浮かびあがる。
「優依ー! 早起きしたのはえらいけど、あと5分で学校はじまるぞー!」
下から、おとうさんの声がひびく。
そうだった!
今日はめずらしく早起きしたから、登校までのあいだに、こたつのふとんカバーをさがしにきたんだった!
あわてて階段をおりて、玄関においてあるランドセルを背負い、家を出る。
ミサキ小学校は、すぐ目の前。
わたしは岬優依。
ミサキ小学校4年1組。
そして、七人目の、死神つき!
さあ、学校に行こう。
そこには、七人の死神つきと、死神がいる。
これからまた、なにが起きるか、わからない。
また死神が七人そろって、戦いがはじまるかもしれない。
もっと大きな事件が、起きたりするかもしれない。
それでも、わたしは……わたしたちは、きっと、だいじょうぶだ。
なぜって?
『シノカ』を持って、『縁』でつながった、ライバルだけど、大切な仲間たち。
わたしたちは、そう!
ミサキ小学校の七人! だから!
ミサキ小学校の七人! 久佐馬野景 @nokagekusaba
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