めい、いっと、びー。

紅蛇

平成が令和に変わった瞬間、インスタを開いてストーリーにそのことを書く。平成、終わっちゃったねぇって仲の良い子と笑い合うんだけど、どれもウソっぽい。

 五月六日。月曜日。

「FUCK OFF」という怒鳴り声とともに、廊下を駆ける。爽やかな春の風が、頬をつたって、ここちよい。もう、いいや。なんでも、いいや。今日は、贅沢にぷっちんできるプリンを買って、まだ肌寒い夜を乗り切ろう。(コーヒーゼリーでもいいな)


 学校までは歩いて、二十分ぐらいの距離。いつもコンビニに寄ってるから、たぶん、それぐらい。寄らなかったら、もっとはやいかも。けど、それは測ったことないから、わからない。(胸のサイズと一緒。こんど行かないと)

 そうだ、今日もコンビニにいこう。(宣言する必要もないほど、るーてぃーんになってるけどね)ちょっと特別に、いつもより遠いところ。耳の奥でなんどもループする怒鳴り声ふぁっく・おふを消すために、自分を慰めるために、あのかっこいい店員さんに、会いに行こう。

 みどり。しろ。あお。たばこ。あ、数メートル先に、隣の席の子。


「やっほーぃ」

 気づいてくれない。

 少しスピードを速めると、葉っぱだけになった桜の木が高く、風にゆれた。散るの早いなぁ、もう。それにしても今日、どうして短パンなんだろう。変なの。

「やっほーい!」

 それでも気づいてくれない。


 なんだか制服のシャツが、湿ってる。特にワキ。あっつきっも。もう、いいや。特に仲良いわけじゃないし。別に私ぃ、群れなくても生きていけるしぃ。一匹狼ぶってはいないしぃ。だいじょうぶ。だいじょうぶさ。先生にグループになれって言われても、話しかけられるし、話しかけることもできる。ほぼクラス全員と友達(?)だし。うける。まじで、だいじょうぶだし。

 スピードを緩めて、いつも通りに。

 それにしても今日、春より「夏々なつなつ」してるなぁ。夏さん、気合入りまくり。ちょっと早いんじゃない? 春はあけぼの。春眠暁を覚えず。

 あっついな。日差しが殺しにきてる。目が痛い。眩しすぎ。眠る気、これで起こるわけないよ。昔の人、やばくない? あ、昔の方が涼しかったのかな。そっかぁ、いまってチキューオンダンカだもんね。うける。

 みどり。しろ。あお。たばこ。あ、ついた。


「いらっしゃいませね〜」

 レジには、かっこいい店員さん。くぅ、暑さの中、頑張ってよかった。(バカまるだしだったら、恥ずかしいな)

 目的地レジに到達するため、まず可愛さアピールにいちごオ-レを。あとは、どーしよ。お弁当は、サンドイッチを作ったから菓子パンはいらないし。チョコレートでいいか。少し苦めのほうが、いちごオ-レと合いそう。よし、《ほろにがブラック》、君に決めたっ!

 両手に花ならぬ「かわいい」の塊を持って、彼の元へ。いけいけぇ。


「Tポイントカードはお持ちですか?」

「だぃじょうぶです」

「五百円お預かりします」

「(かっこいい)」

「ありがとうございました」

「ありがとうございますっ!」

 短く切りそろえられた黒髪が可愛くて、すこし大きめな瞳が、おばあちゃんの飼ってた柴犬ゴンちゃんを思い出す。かわいいし、眉がはっきりしていてかっこいい。はぁ、幸せ。冷房の効いた店内を出る。みどり。しろ。あお。たばこ。

 心なしか、リュックが軽く感じてスキップを。(財布の中身が減ったからじゃね)ビニール袋がしゃかしゃか鳴って、心がるんるん鳴って、ラインがぴこぴこ鳴った。


「もしもし?」

「もしもしぃ」

 あ、お母さんの声。聞きたくなかったわぁ。けどなに。

「あんた今日、学校ないわよ」

 え、うそでしょ。

「まじで?」

「本当よ。今日、ゴールデンウィーク最終日月曜日じゃないの。思いっきり忘れていたわ、早く帰ってきなさい」

 おかあさん……。軽やかなステップはどこへやら。じゃあさっき前を歩いていた「隣の席の子」は? 間違えたのかな、私みたいに。だったらダッサ(笑)あ、これ瞬間的に、自分のこともダッサになっちゃうんだ……。はぁ、ツッラ。それとも人違い? めんどくさ。帰りたくない。勉強するのもやだけど、歩いた意味ぃ。

「……わかった」

「切るわよ」


 ぷつり。ぷつり。ぽつり。ぷつり。もうやだ、やだぁ……。こんな世界、私の存在以上に「FUCK OFF」だよ、ばぁーか、ばぁーか。もう、いいや。なんでも、いいや。ラインのメッセージを開いて、通話終了に続いて「ちょっと散歩する」と一言送信。急いで既読も返事も来る前にカバンにしまって、方向を左に。

 買ったばかりのいちごオ-レを飲もう。チョコレートをつまみながら、この季節を楽しもう。

 あついなぁ。

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めい、いっと、びー。 紅蛇 @sleep_kurenaii

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