第48話 そして世はこともなし

 玉座戦争よりいくつものことが起きたが、ここからは歴史家に倣い編年体で記すこととしよう。




 カームラ廃王は華胄界名籍簿では玉座戦争終結後の年の暮れに死去したこととなっている。

 しかし、国境近い山の奥、その地では珍しい金髪の妻を伴った羊飼いがいたこと。

 そして、華胄界名籍簿では生涯独身であったユーエ・ユウ・デ・ラ・メア公女の死去年が、カームラの死去年より約40年ほどのちであったことを付記しておく。




 ラキア副官はいかなる爵位も恩典も断り、生涯を彼以外にはなんの名誉もなく思われる副官の二つ名で過ごした。

 ただしその傍には、王が必死で探したという、王国で一、二の美貌を謳われた忠実な妻が常に侍り、自らの子供と後進を育てながら幸せに暮らしたという。




 傭兵団の面々はそれぞれ一代爵位を賜り、副官とともに王国の軍を立て直すことに努めた。

 これより王国の軍はその後数十年は近隣国より畏怖の目で見られることとなる。




 ゼーファック公爵家は爵位を賜りながら、特に生活を変えず肉屋の営業を続けた。

 『肉屋公爵』と呼ばれ貴族たちとはあまり縁がなかったが、その店は時には王も訪れる店として大変に繁盛した。

 ゼーファック夫妻は特級銀戦功十字章を並べて肉屋の店頭に飾り、店が暇なときには客に息子の自慢話をしていたそうだ。微笑ましい話である。




 ハリティアス伯家は子爵に爵位降下をされ、領地も大幅に減らされたが、前当主とは正反対の堅実な考えの持ち主である新当主によりまずまずの権勢を維持したという。




 もう一人のショウエルは母の死を深く悼んだが、その後は少女らしい強さで回復し、地方貴族の跡継ぎとしてささやかながら幸せに暮らした。

 夫もまた彼女とよく似た気質の男だったため、よく二人で森で狩りをし、互いに剣の稽古をしていたそうだ。彼女が幸福になれたのは何よりである。




 屋敷だけが残っていたクエンティン公家は、その本宅のみならず、別荘、厩まで徹底的に焼かれた。二度と『本』をこの世に出さないためだ。

 フレンジーヌの手にあった『本』も焼かれ、ショウエルの『本』は王宮書庫の最深部に厳重に、しかしひっそりと保管された。

 イザナルは、一度起きた災厄が、二度起こらないと考えるほど愚かではなかった。




 『空位王』とまでそしられたイザナルはその後善政を敷き、ヴィーゲル王家中興の祖として『英雄王』と名を変え語り継がれることになる。

 彼が娶った妃もまた、太陽の光のような金髪を持つ嫋やかな美女ながら、武勇にも秀でた姫君で、平民への教育や援助に熱心であったことから、王妃ではなく国母と称され国民に愛された。

 彼と彼の子が王であった時代はのちに『黄金の時代』と呼ばれた。




 エルリック・ブロォゾは自らの爵位を得ることはなく、生涯をブロォゾ一族や他の卑族の復権のために尽くした。大切なのは教育であると考えた彼はいくつかの学校を設立し、彼らにも世に出る機会を与えたのである。

そして____。




「ショウエル様!式典には正装でご出席なさってください!」

「いやよ。だって正装は重くて邪魔なんですもの。このドレスだって十分だわ。

これでも派手なくらいよ。それにこの勲章。皆が見るから恥ずかしいわ」

「王国の武人すべてが渇望する勲章ですよ。生徒の意気を鼓舞するためにもそれをつけていただくのだけは譲れません」

 

 特級黄金戦功十字章を胸から外そうとするショウエルの手をエルリックが推しとどめる。


「まったく……せっかくイザナル殿がショウエル様には準王族の正装を許されたというのに……」

「入学の式典にあんなドレスで生徒の前に出るなんてかえって恥ずかしいわ。

 あなたこそ、学長なのだからもっと立派な服を着なさいな」


「それはいいのです。私はショウエル様の従僕……」

 

 む、とショウエルの表情から不穏な気配を感じ取ったエルリックが後ずさる。


「夫、でしょう?エルリック・ブロォゾ・デ・ターリア・ハイレッジ女公代理」


「まだまだそのようなこと畏れ多く……」

「それならば宮中行事はすべてあなたに任せましょうか?」

「……ご遠慮いたします」


「ならばお黙りくださいまし、夫君」


にっこりと笑ったショウエルが、軽くエルリックの頬にキスをした。


「ねえ、エルリック、イザナル殿が下さろうとした王妃の冠、それよりもわたしにはあなたがくれた指輪の方が重くてよ」



めでたしめでたし、である。

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悪役令嬢なんてまっぴらです! 七沢ゆきの @miha-konoe

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