『ALWAYS 三丁目の夕日』のラノベファンタジー版

『ALWAYS 三丁目の夕日』という映画をご存じですか?

漫画を原作とした同作は「高齢世代が懐かしみつつ思い出せる子供だった頃の明るくも猥雑だった時代の物語」が描かれています。

ただ、当時はもっと不潔だったとか、今とはくらべものにならないくらい暴力や非道が横行していたとか、「現実と違う」という批判も集めました。

しかし、ノスタルジックな雰囲気や電子機器を介さない人間関係、情報格差・教育格差から生じる人々の滑稽な振る舞いなど、現代を舞台にしては描くことができない「どこか別の場所の物語」を感じさせてくれる作品として、最終的に多くの支持を得たことは、少し調べればわかると思います。

『異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず)』は、どこかコレと似た空気をただよわせている作品です。

ファンタジー世界です。魔法があります。魔物がいます。貴族がいます。奴隷もいます。冒険者もいますし迷宮もあります。

そんな世界に「豪商の三男だが特権階級ではない」「貴族ではないが魔法が使える」「魔法の天才だが男性魔法使いの評価基準である攻撃魔法の才だけは皆無」という境界的存在として生まれた主人公は、前世で社畜だった記憶を持つがゆえに、題名通り「上前をはねて生きていく」ため、治療した傷病奴隷を労働力として事業(?)を展開しつつ、自らも非攻撃魔法の分野で成果を出していきます。

背景をみれば貧困や戦争など、社会の闇が垣間見えます。しかし、装飾を取り除いた簡素な一人称で描かれることにより、今を生きる、たくましい人々の前向きな姿が強く浮き出ているのが本作の大きな特徴です。

ありふれた転生モノと違い、主人公は前世への思いを完全に切り捨てられていません。奴隷たちも過去を忘れていません。それでも彼らは生きていく。さらりと描かれた『同じ顔』のソルメトラのその後こそが、本作を象徴していると思うは、私だけでしょうか?

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