第176話「元魔王、アイリス王女の決意の内容を知る」
翌朝、俺とアイリスは護衛の兵たちに、ジョイス
──俺がテトラン=ダーダラの
──彼女が怪しい魔術を使っていたこと。
──俺から話を聞いたアイリス王女が、身の危険を感じたこと。
──俺たちが急いでジョイス
──護衛ノインを
──彼女は急いで王都に移送すべきであること。
──これらの事実を『魔術ギルド』にも伝えて欲しいこと。
──危険な魔術を使う護衛ノインの
そんなことを、俺とアイリスは、護衛の兵士たちに伝えたのだった。
「「「了解いたしました!!」」」
「アイリス殿下のお言葉通り、その者は
「お願いします。王都に着いたらこの書状をカインお兄さまと、『魔術ギルド』のザメルさまに渡してください」
アイリスは2通の書状を、兵士の隊長に手渡した。
そこには護衛ノインが使った魔術の内容と、彼女にとりついていた
カイン王子と老ザメルなら、護衛ノインと『聖域教会』に関わりがあることがわかるだろう。
護衛ノインを『魔術ギルド』に運ぶのは、老ザメルに彼女の顔を確認して欲しいからだ。
老ザメルは『ヴィクティム・ロード』の使い手たちを見ている。
彼なら、護衛ノインが彼女たちとよく似ていることに気づいてくれるだろう。
気づかなかった場合は……オデットにお願いして、
もちろん、俺とアイリスは『ヴィクティム・ロード』については知らないことになっている。
だから「あらびっくり、そっくりな人が王都にもー」って顔をしなきゃいけない。
その練習もしておかないといけないな。
「よろしくお願いします。皆さま」
すべての手配を終えたアイリスは、馬車の中へ。
そうして……そのまま座席に
うなだれた様子の彼女を見て、兵士たちは「殿下はお心を痛めておられる」とつぶやいてる。
たぶん、違う。アイリスは眠気の限界が来たんだろう。
それで椅子に座ったまま眠ってしまったんだ。
昨日はほとんど
でも、俺は眠るわけにはいかない。
俺はアイリスの
一行が出発したあとは、ずっと馬に乗って、姿勢を正していた。
まあ、眠りそうになるところを、コウモリたちに起こしてもらったりはしたけど。
それでもなんとか、その日に泊まる町に着くまで
もちろん、その日の宿についた後はぐっすりだったけど。
そうして俺とアイリスの旅は順調に続き──
数日後、俺たちは無事に王都へとたどり着いたのだった。
「それではユウキさま。旅の間の
「ゆっくりとお休みください。王女殿下」
俺とアイリスはよそ行きの表情であいさつをして、別れた。
それから俺はジゼルを『グレイル商会』に送り届けて、旅の報告をした。
ローデリアはびっくりしていた。
ミーアの消息は、彼女の一族にとっても気になるところだったんだろう。
あとでローデリアにもミーアの言葉を聞かせることを約束して、俺たちは別れた。
その後は、俺はマーサと一緒に自宅と向かった。
これからやることはたくさんある。
まずはオデットと会って、情報を共有しなきゃいけない。
テトラン=ダーダラがどうなったのかも気になるし、帝国皇女ナイラーラと『ヴィクティム・ロード』の使い手たちの
それに、俺の手元には『ヴィクティム・ロード』の本体がある。
封印されたこれを『
『ヴィクティム・ロード』の本体は『魔術ギルド』にも渡してある。
あちらでも調査は行われるはず。
俺が『
だから、
『侵食』して……万が一
落ち着いて、時間をかけて、調査したいんだ。
だから──
「おかえりなさいなのです! ごしゅじん、マーサさま!」
「ただいま。レミーちゃん」
「ただいま」
……とりあえず、俺はマーサやレミーと一緒に、一休みすることにした。
マーサはお茶の用意を始めているし、レミーは、そんなマーサにくっついてるからな。
それに旅の間、マーサには助けてもらったから。
今は、マーサたちとと一緒の時間を大切にしよう。
そんなことを考えながら、俺はマーサやレミーと一緒に、のんびりした時間を過ごした。
その後は旅の疲れをいやすために、早めに就寝。
翌日から調査を始めよう、と、思っていたら──
「『魔術ギルド』より書状をお届けにまいりました」
翌朝早く、『魔術ギルド』から使者が来た。
手渡された書状には……老ザメルとカイン王子の
『魔術ギルド』の賢者たちが連名でよこしたものらしい。
もしかして『ヴィクティム・ロード』の調査が終わったのか?
早いな。さすが老ザメルとカイン殿下だ。
そう思って書状を開いてみると──
「『魔術ギルド』の賢者会議より連絡する。
このたび、王都で
これはダーダラ
ギルドのB級魔術師が起こした事件に、われらA級とB級の魔術師たちは、責任を感じている。
また、ご旅行中のアイリス殿下の護衛騎士が
犯人は、煙の『王騎』の使い手たちと似た顔と、姿かたちをしていた。
おそらくは、仲間だと思われる』
「老ザメルは、護衛ノインの身柄を受け取ってくれたようだな」
護衛ノインと『ヴィクティム・ロード』の使い手との類似性も確認したのだろう。
だから、ノインは奴らの仲間だと書かれているわけだ。
これで『魔術ギルド』は危機感を抱いてくれたはず。
老ザメルたち上位の魔術師も、対策を立ててくれるだろう。
『現在、奇怪な事件が連続して起こっている。
そのことに危機感をおぼえた我らは、対策を立てることとした』
……よし。
『アイリス=リースティア殿下のご提案もあり、我らはふたたび「
皆も覚えているであろう、かつてトーリアス
ギルドの奥深くに安置されて、誰も触れるもののない「王騎」のことを。
そう。「
なんとアイリス殿下は、この「獣王騎」の起動実験の
……おい。
…………ちょっと待った。
アイリス、お前なにやってるの!?
『アイリス殿下は王家の代表として「
そうすることで、まだ見ぬ敵に対抗したいとお考えなのだろう。
また、アイリス殿下が使い手となれば「獣王騎」の研究も進む。
「獣王騎」は高機動で高速移動が可能な「王騎」だ。これを調べることで、より高度な『レプリカ・ロード』を作ることもできるだろう』
……確かに、そうかもしれないが。
『また、今回我々は「ヴィクティム・ロード」なる煙の「
同じ「王騎」ならば、
「王騎」を調べることで「ヴィクティム・ロード」の正体をつかめるはずだ。
調査にはより多くの「王騎」があった方がよい。
だが、現在の我々が使えるのは「
これに加えて「
……ああ。それは俺も考えていた。
『
『魔術ギルド』も同じことを考えていたのか。
だったら『霊王騎』だけではなく『獣王騎』も使えた方がいいよな。
……その理屈はわかるんだが。
『アイリス殿下の勇気はすばらしい。
だが、殿下にすべてを背負わせるわけにはいかぬ。
ゆえに『魔術ギルド』では、起動実験の
アイリス殿下が参加されることは変わらないが、適格者は多い方がよいからだ。
「
期日は──』
ぱたん。
俺は書状を閉じた。
「……さすがアイリス。俺の予想をあっさりと
『王女の権力を使う』
『もっとたくさん、マイロードのお手伝いができるようになりたい』
──あの言葉は『獣王騎』の使い手になることを意味してたのか。
気づかなかったよ。
うちの子ってすごいな……。
アイリスは以前にも『獣王騎』の使い手になりたいと言ったことがある。
あのときは俺が
それでアイリスがあきらめたという
アイリスが『獣王騎』の使い手になるのには危険がともなう。
万が一『獣王騎』がアイリスを完全な使い手として認証してしまったら、他の人間が使えなくなる可能性がある。
その場合、俺たちが王国を離れた後、『獣王騎』が使用不能になってしまう。
だけど、今回オデットが
先のことを心配して、ためらってる場合じゃないと。
というか、『獣王騎』を『ヴィクティム・ロード』の調査に使うという名目なら、俺が許すと思ったんだろうな。アイリスのことだから。
確かに……以前とは状況が大きく変わっている。
『王騎』の使い手が王国にまで入り込んできたんだ。
アイリスが危機感をおぼえるのもわかる。
さらに言えば、俺も最近『王騎』のことがわかってきた。
仮にアイリスが『獣王騎』の唯一の使い手として
俺が強引に『
……まいったな。
アイリスの提案を
それに……俺もミーアのメッセージを聞いたからな。
『フィーラ村のみんなは、自分が望んだ通りに生きました』という言葉を。
あの言葉を聞いたアイリスは、できることを精一杯やろうと決めたんだろう。
それが『獣王騎』の使い手になることだというのは、予想外だったけど。
アイリス……お前、俺と別れてすぐに『魔術ギルド』に駆け込んだだろ。
カイン王子と老ザメルに面会を申し込んで『オデットに聞いたのですが、王都で事件があったそうですね。でしたら──』と言って説得したんだろうな。
しょうがないなぁ……。
「わかった。アイリスは思うようにやってみるといい。後は俺がサポートする」
うちの子が『自分の力を試したい』と言ってるんだ。
やらせてみよう。
問題があったら俺がなんとかすればいい。
俺は『フィーラ村』の守り神だからな。うちの子がチャレンジしたいというなら、フォローしよう。ただし、本当に危なくなったら止める。
それも、守り神の仕事だ。
「まずは、オデットと話をしないとな」
きっとオデットはびっくりする……いや、しないか。
『アイリスですもの』
とか言いそうな気もする。
オデットはある意味、俺以上にアイリスのことをわかってるからなぁ……。
「マーサ。ちょっと出てくるよ。準備を手伝ってくれるかな?」
「はい。ユウキさま」
「はーい。ごしゅじん!」
こうして、俺は『獣王騎』起動実験への対策を立てることにしたのだった。
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辺境ぐらしの魔王、転生して最強の魔術師になる 〜愛されながら成り上がる元魔王は、人間を知りたい〜 千月さかき @s_sengetsu
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