第137話 ミルアの料理

登場生物まとめ


ミルア:森にひとりで住んでいた、湖の魔女の血縁者の子孫。

メリンダ:眠りの魔女。身体を持たない次の段階に移行した。

ナイン:使い魔。過去の聖人メランダの使い魔だったらしい。

マリア:墓所から目覚めた湖の魔女の身体の持ち主。甘い物好き。

アリシア:貴族の少女。魔力はかなりある。魔力を使うとお腹が減るらしい。

ノーラン:貴族の青年。魔力はそれほどでもないが、魔法は使える。

ナタリア:アリシアとノーランの母親。湖の街を治めるレイク家の当主夫人。


**********************************


「ねえミーちゃん。何かおいしいものをつくってくれないかしら。」


身体を持たない次の段階に移行した聖なる魔女であるメリンダの言葉に、ミルアは困惑した。


「メリンダさまのお望みとあればなんなりとと言いたいところではありますが、私ではあまりたいしたものは作れそうにありません。」


長いこと森でひとりで暮らしていたミルアは、食に対する関心があまりない。魔力によって食事をする必要性は低いし、食べるものといっても家の裏にある果物や川でとった魚くらい。たまに街へ買い物にいくことはあるものの、必用な調味料などを買うくらいで店で何かを食べたり買ったりということもほとんどない。


「よろしければレイク家に行ってご馳走になるのはいかがでしょう。」


そうミルアは提案したのだけど、メリンダは納得しない。


「それもいいけど、すぐ食べたいの。甘いものがいいわ、プリンみたいなの。」


プリンというのは少し前にミルアの身体を使っていた異世界の人間が伝えたものだ。卵とミルクそして砂糖があればできる。しかしミルアの家には卵と砂糖はあってもミルクはない。


「プリンじゃなくてもいいわ。何か新しいお菓子もいいわね。ミルアの記憶にないかしら。」


ミルアの記憶というのは、異世界から来ていた人間の記憶のことだろう。いなくなってからもそのノムラとかいう人間の持っていた記憶の一部はまだ残っている。少し前に細かくしたゼリーを入れた飲み物をつくったらメリンダ様に喜んでもらえたが、それも異世界の記憶をヒントにしたものだった。

なので今回も何かということなのだろうけど、自分のものではない記憶なので偶然に思い浮かぶことはあっても意図的に思い出すというのは難しいのだ。何か卵と砂糖で作れるお菓子はないか。卵と砂糖、卵と砂糖…。


「あ、もしかしたらできるかもしれません。」


「ほんとう? それじゃあなるべくはやくお願いね。」


ミルアは頭の中に浮かんだイメージにそって料理を始める。まずは卵を茹でる必用がある。鍋に卵と水を入れて加熱する。魔力を水に流し込むと、すぐに沸騰するのでそのまましばらく待つ。

茹で上がった卵を取り出して水につけてから殻をむき、白身と黄身に分けて器にいれる。

それぞれに砂糖を加えてから混ぜる。記憶では網のようなものに押し付けて細かくしていたが、魔力を使えば器具を使わないでもなめらかな状態にできる。

それからまず白身を四角く固める。これも魔力によって形を保つ事で簡単だ。

次に黄身を白身の上に乗せて固める。黄身は少しだけ残しておいて、上からぱらぱらとふりかけるようにして軽く押す。最後に加熱するのだか、これは直接魔力を流し込んで温めた。


「出来ました。」


出来上がった黄色と白の二層になったものを切り分けて皿に盛り付けると、ミルアは自分の目の前に置く。


「それじゃあさっそく食べてみようかしら。」


メリンダはそう言うとミルアの身体を使って食べ始める。ミルアの意識も残っている状態なので、ミルアにも味は感じられた。


「おいしいわ。」


卵のお菓子を食べながらメリンダは言う。


「それはよかったです。」


ミルアも答える。ミルアの口はお菓子でふさがっているので二人とも魔力を使って会話をしている。


「これはプリンとはまた違った美味しさがあるわね。どう、あなたも食べてみない?」


メリンダが外に向かって声をかけると、ナインが姿をあらわした。


「せっかくだからいただくよ。」


そして取り分けられたお菓子を食べ始める。


「うん、これは美味しい。僕はプリンよりもこっちの方が好きかな。できたらもっと食べたいところだね。」


ナインも気に入ったようで、すぐに食べ終わってしまう。


「それじゃあレイク家に行ってつくってもらいましょうか。マリアちゃんやアリシアちゃんにも食べさせてあげたいし。」


というメリンダの言葉にミルアが反対するわけもなく、ナインといっしょに街まで飛んでいく事にした。


**********************************

久しぶりに友人のノムラから連絡が来て、個人的なあれこれや僕が彼の話をもとにしてネットに発表した小説についての感想や文句などが書かれていました。人を勝手に行方不明にするなとのことで、残念ながら異世界に行っていたわけではなかったようです。

そして上の話の元になるものも書いてあって、これは異世界転生マシンの機能で過去に行った世界の情報を得て記録したものだということです。

作中でミルアが作っているのは錦玉子だろうと判断できたので、描写もそのようにしています。ミルクが無くてもミルクの実を使えばプリンもできそうですが、それはミルアが思いつかなかったのでしょう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙転生 転生したら宇宙空間だった ノソン @NOSON

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ