東都大学歯学部は冬季まで閉鎖されることになった。原因不明の怪死事件、未知のウイルスの集団感染か、などと報道する新聞もあったが、その後ウィスコンシン州であった銃乱射事件で信じられないくらい大勢の人が死んだり、集中豪雨で地方都市が甚大な被害を受けたりして、彼らの死はかき消された。

 顔見知りの人が死んでいるのに不謹慎だけど、私はすごく嬉しかった。

 私は実習が嫌いだ。

 ケーシーというこの実習着は、胸の大きさによって服の前面が突っ張って、胸が大きいことがまるわかりになるのだ。患者さんや、生徒を指導する立場のドクターまでもがそれを指摘してきた。そして、その度に他の女子から陰口を言われる。

 乳強調して歩いてんじゃねえよババア、そんなふうに。ヨシくん――旦那に言っても「確かにお前は他の子たちより年上なんだからしょうがないだろ」としか言ってくれなかった。「お前の事情で勉強させてやってんだ、そのせいで俺の仕事は忙しいんだからせめて愚痴くらい言わないでくれよ」そんなふうにも言われた。

 何もかもに腹が立つ。


 みんな殺しちゃっていいよねえ。


 私は綺麗な金属の球に話しかける。大学の裏に落ちていたのだ。きらきらと輝いて、星のようだったので思わず持って帰ってきてしまった。

 その金属の球の前で日々の愚痴を漏らすと、いいことが起こる。

 私の悪口を言っていた神田明菜はバイク事故で足を折ったし、いやらしい目で見てきた中松先生は三重にある実家に不幸なことがあったと言って病院をやめた。それに、ヨシくんだって。

『でれす』

 話しかけられたような気がした。

 最近この球をいじっているとどこからともなく声が聞こえる。何を言っているかは分からない。

 不気味なわけがない。この球は私の味方だ。私のお願いを聞いてくれている。悩みの種が消える度にこの球の輝きが増すからだ。宝石よりもきれいだ。幼稚かもしれないが球に名前をつけた。ビーナスちゃん。私が大好きだったセーラームーンの愛野美奈子ちゃんから取ったのだ。

ヨシくんは気持ち悪いから捨てろって言ったっけ。でも、私は言うことなんて聞かなかった。ヨシくん、ヨシくん、ヨシくんって誰だっけ。

『さくりふぃちうむ』

 おかしいことなんて何もない。私は何も間違っていない。ビーナスちゃんだってそう言っている。

『さくりふぃちうむ』

 次は誰にしようか。

 私は微笑みながらビーナスちゃんを見つめた。お星さまみたい。本当にきれいだね。

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星の瞬く 芦花公園 @kinokoinusuki

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