彼女の部屋に残されていた手紙

椎月ユカさんへ


 こんにちは。


 あなたがこれを読む頃には、私はあなたに体を返して消えてしまっていると思います。

 なので、消えてしまう前にあなたにメッセージを残しておこうと思います。


 私はさっき、魔法であなたの魂を抜き取り、家に帰ってきたところです。

 あの丘で話した通り、明日、椎月ユカとして自首しようと思います。


 正直、私はあなたのことをどう思っているのか、自分という存在が生まれてきて良かったのか、今はまだ言葉で表すことができません。


 でも、一つだけ感謝していることがあるので、それをあなたに伝えようと思います。


 雨の街を好きになってくれてありがとう。


 あなたのその素敵な想いは、私にとっても大切な思い出となりました。

 だからその気持ちも、ちゃんとあなたに返したいと思います。


 なので、できることなら「雨の街から」の続きを書いてください。

 結原ヒカリは、本当はあの霧の向こうで何を見ることになるのか。

 それをまたあなたの言葉で語り始めてくれたら、私は嬉しいです――。






カナデへ


 こんにちは。


 これを読んでいるということは、カナデはもう自分の罪を償って自由になれたってことだよね。


 ユカだけに手紙を宛てるつもりだったけど、もう会うこともないかもしれないから、カナデにもメッセージを残しておきます。ついでに(笑)


 思い返せば、私たちは路地裏で警察に追われているときに出会いました。

 それから、一緒に暮らしたり、霧の荒野を彷徨ったり、雨の街でご飯を食べたりしました。

 短い間だったけど、カナデと過ごした時間はとても楽しかったよ。


 私は、カナデのこともどう思っているのか、よく分かりません。

 色々なことがありすぎて、心の整理がつかないのです。

 でもまた会うようなことがあれば、そのときは自分の気持ちをちゃんと伝えられると思う。


 もし私が消えてしまったら、私の気持ちや記憶も消えるかもしれない。

 だから、そうなる前にカナデに会いたいです。


 私が帰ってきたら、また会おうね。




結原ヒカリ from 雨の街から

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

from 雨の街から 広瀬翔之介 @Hiroseshonoske

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ