飲み干すイヤリング

細矢和葉

飲み干すイヤリング

 世の中の恋愛中の人たちはもっと割り切れているように見えていたし、恋愛マニュアルは総じて嘘ばかりだった。

 高校生の頃なら、都合の悪い事実を忘れるため、カラオケ三昧買い物三昧だったはずなのに、今の私には何の気力も湧いてこない。仕方がないとポテトチップスの袋を手に取ったけど、ひねってもひねっても封が切れない。どうやらコンソメ味の芋にすら私の存在を否定されたようだ。

 一体全体何だってあんな客観的には中の中程度の男をこんなに引きずっているのだろう。初めての失恋でもなければ、多感で世間知らずな女子高校生でもないというのに。

 ベッドの上へ大の字に寝転がっては、あたしが全部悪いのよ、と叫んでみたり、あんたが全部悪いのよ、とこぼしてみたり。こんなに面倒で嫌な性格の私に少し前までは彼氏がいたこと自体が奇跡のように思える。

 こうして考えるたびに、「元彼」と呼びたくない自分のこだわり感じた。

 ああもう、まだ好きだとか自分で認めたくない。そんな未練に取り憑かれるようなあたしじゃないのよ。そう思っていたいのよ。

 今までの元彼たちからもらったものなんか全部捨てたくせして、そこに飾ってあるじゃない。と、言わざるを得ない。

 いやいや、あれは違う。男からもらったからじゃない。私に似合うから持っているイヤリング。捨てるのがもったいないだけ。可愛いデザインだもの。

 自問自答するまでもなく答えなんて出ている。

 認めたくないわ。客観的には中の中程度だったはずの男を、私にあんなに特別似合うものを見つけてくれた男を、忘れられないだなんて。

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