虚空に消えた気持ち

 浸透圧、という言葉がある。濃度だけ違う同じ溶液を半透膜で隣合わせると、濃度の低い方から高い方へと溶媒(溶かしている方、食塩水なら水に当たる)が移るという現象である。ここで重要なのは溶液の濃度を単純に捉えることではない。濃い溶液は溶媒の密度が低く、逆は逆である。つまり、『溶媒の密度の高い方』から低い方へと溶媒が流れていく。
 本作においては、地球という溶媒の中に主人公と相手という溶質(溶かされているもの、食塩水でいえば食塩)があると考えられる。その場合は、一杯のコップの水に食塩と砂糖が一緒に溶けているようなもので、二人はなるほど全く異質の存在である。実のところそう解釈するのが一番自然な流れではある。
 しかし、そこからひとまず離れ、二人が少なくとも精神的に同じ存在としたらどうだろう。その場合、主人公の方がその相手より心に溶け込んでいる悲哀がはるかに濃い。してみれば、相手の心が主人公へと移りつつあるということか。その途中経過が雨になっているということか。
 地球はなにも語らない……。