第6話~私のちょっとした秘め事~

 私こと北条院未祐(ほうじょういんみゆ)は多趣味だ。


 別に気取ってるわけでもないのだが,人よりも趣味の数は多い方だと思う。一般的な女子が好きそうなショッピングやデザート作り、裁縫などもやる。ジョギングなども運動もする。ただ球技は苦手だ。読書もするし、ゲームも人並みにやる。


 他にもピアノを弾くのも出来るし、映画なども好きだし、釣りしたり、小旅行も好きだ。まぁこの手の趣味は必ずと言ってお付きが来るので一人でのめり込むのは無理だが。


 ただなぜ私がここまで多趣味なのか気になるだろう。


 それははっきり言ってこの環境のせいだ。別に今更親のせいとは面と向かっては言わない。両親はずっと家をあけてるし、メイドたちも特には興味もわかない。一名だけ、私に興味を沸かれる鉄面皮のうざいやつもいるが。


 そうなると暇なのである。自分の家だけでいろいろするのも飽きてくるし、なにかしたくなると考えるのは至極当然のことだ。


 そうしたことを久しぶりに帰った親に小さい私はいつもぶつけていた。友達に言われた楽しいことを。あれもしたいこれもしたいと親にはねだりまくった。


 趣味は物にもよるけどけっこうお金を使うし、時間も使う。普通の親ならそんな金あるかなんて言われるのかな。しかしそこは金持ち、趣味のためならと費用は負担してくれた。


 ある意味当時の私のそのねだる行為は構って欲しいの愛情表現の一種だったかもしれない。とはいえ子供の接し方が分からない親はお金でしか解決策を知らなかったようだ。


 お陰で今はいろんな趣味を楽しませてもらってます。はい。


 そして最近ハマっていることは……。詳しくは少し前にさかのぼる。


 四か月前、ちょうど年明けてしばらく経ってだろうか。ある日の学校での出来事である。




★★★★★★★★




「ねぇ!! 未来! ユリキュア見ようよ!!!」


 それは友達の萩原萌(はぎわらもえ)の言葉から始まった。


「へ? なにを藪から棒に。ユリキュア?」


「そう、ユリキュア!! 新しいのがもうすぐ始まるし、未来が見始めるのもおすすめだと思う!!」


「ユリキュアねぇ……」




 『ユリキュア』とは日曜日の朝に放送している女の子を対象とした人気の魔法少女もののアニメの総称だ。同時間帯には男の子に大人気の変身ヒーローものが放映している。


 シリーズものとして続いているのは知っている。ファン曰く作り込まれた女たちのかわいい衣装やストーリーに定評があるらしい。私も小さい頃にチラッと見た記憶がある。


「絶対面白いって!! 見なって!! 女の子たちが可愛いんだから」


「ふうむ……」


 私は多趣味と明言したが、実はアニメなどには詳しくはない。そりゃ映画とかで話題になったものは無理やり萌に連れていかれるのがお約束になっているが。だから興味がないわけではない。


 しかも本来は子供向けの作品のアニメをお勧めされてもぶっちゃけどうなんだとも思うわけである。


「あんたがユリキュアのファンなのはずっと聞いてるわよ。小さい頃から相も変わらず、見てるってことも」


「それだよそれ!! ずっと見ててオススメだって言ってるのに未来はちっとも見てくれない。アニメ見ないから嫌いなの?」


「別にアニメが嫌いじゃないと思う。あんたが子供っぽい奴ばっかり押し付けてくるからでしょ」


「だ、だって朝のアニメはいいけど。夜にやってるアニメはヒトが死んじゃうのもあるし、ちょっとエッチなものもあるし、未来が心配で……」


「はぁ……」


 深くため息をつく。この子は私を何だと思っているのだろう。人が死ぬ描写や官能シーンなんてものは小説やドラマで散々見てきている。大勢がないわけではない。今更、何を言ってるのだろうか。


 彼女も私がドラマとか見てるのを知っているはずなんだけどね。まぁ、本気で心配してくれているみたいだから無下には出来ないけどね。


「まぁ、あんたが心配してくれてるのは分かった。けどやっぱり子供向けってのは……」


「いいえ!! これは全人類が見るべきものです!! 今日という今日は絶対に見てもらうからね!!」



 ドン!!



「は?」


 いつになく強気な萌が取り出して机に勢いよく置いたのは、何かのBlu-rayセットだった。


「これは去年。そしてこっちは一昨年のユリキュアのBlu-rayセット。これで間違いなく、未来もユリキュアにはまるよ」


「うへぇ~~」


「ほら、家帰ってじっくり見る」


「あんた、Blu-rayまで買ってたの?」


「うん、3セットずつあるよ」


「あんた、そんなにかってどれだけかかるのよ。すんごく高いんじゃないの?」


「実家は金持ちなので」


「そうだったわね」


 アニメのBlu-rayなどは高いと聞く。こんだけ持ってる上に3セットとはどんだけかかるのだろうか。


「ダダで買ってもらってるわけじゃないよ。発売の直前に親の手伝いしてる。洗濯とか、家事とか」


「そんなの、一般家庭もやってるんじゃないの? それだけであっさり買ってもらえるなんて、ネット周りの嫉妬が恐ろしそう」


「だからよ!!! こうやってBlu-rayを3セットも買ってくれる恵まれた環境だからこそ、私は布教活動を怠らないの。鑑賞会やってユリキュア仲間を増やしてるんだから!! ほら、可愛いから、話も面白いから」


「すごいわね。そのあんたのその熱量。分かったわよ、見るわよ、見る!!」


 結局、萌の熱意に押された私はそのBlu-rayを受け取ることにした。そしてそのまま家にへと持って帰ったのである。


 そして学校が終わり、怪訝な目で持ち帰った物をメイドたちに見られたが気にせずに自室で鑑賞することになった。特に無表情のメイドがしつこく質問してきたが無視をする。




「はぁ……。まったく萌ったら、本当に面白いのかなぁ?」


 いつもと違い、夕食を自室で取る。そして部屋にあるBlu-rayデッキにユリキュアをセットする。


「えぇっと、フレッシュユリキュア? フルーツにでもかけてるのか……」


 まずは一タイトル。一話目の鑑賞だ。


 そして私は初めての本格的なアニメ視聴が始まったのであった。そうそれが泥沼の始まりだった。




 そうして4か月後の現在。



「この貸したユリキュアどうだった?」


「めちゃくちゃよかったわよ!! なんなのあの神展開は!!? 敵だったのに、最後は主人公と苦しみながら戦って、そう思ったら転生して味方になるかと思えば、罪悪感から分かれていく!! 悲しいぃぃ!!」


「ほほぉ、未来さん。なかなか分かっていますな。あの展開はたぶんユリキュア史上初の展開。以降、敵が味方になる展開の先がけを作ったんだよ」



「うん、本当に良かった。でも悪女コスの時も最高だったけどね」


「本当に、未来は好きだよね。この前見せたコミックスマーケットのそのキャラのレイヤーさん見せたらドはまりしてたもんね」


「そ、そうね。なんだろう、会ってもいないけど、そのレイヤーさん、見た瞬間一目ぼれしたというか、でも初めて見た気がしないというか。すごいときめいた」


「写真まで部屋の机に飾ってるんでしょ。そのレイヤーさんを」


「だって、本当に現実にキャラが現れたというか。本当に美人だし、早く会いたいなぁ!!」


「ふふふ、だから次に開催予定の夏のコミックスマーケットに行くんじゃない!! 遠征になるけど、お手伝いさんが来てくれるから大丈夫。そこのレイヤーさんがいるサークルに知り合いのいるし!!」


「いやぁ、持つべきものは友よね」



 私はすっかりとユリキュアにはまってしまい、そこから派生していろんなアニメも見るようになった。もちろん今までの趣味もやってるけど、アニメ関連での遊びが増えた。グッズも買ったし、声優さんにも詳しくなった。


 萌はアニメが好きなので、いろいろ教えてもらった。コミックスマーケットという大規模な同人イベントのこともそこから知った。そしてそこで活動しているあるサークルの私の推しのユリキュアキャラのコスプレしている人がいた。


 写真ももらったし、まさに一目惚れ。心がどきどきした。これが恋なのだろうか?


 とりあえず、今度の夏に控えるそのコミックスマーケットに行くことになったのである。今から本当に楽しみだ。













★★★★★★★★
















 最近、ユリキュアのアニメにはまったというお嬢様。お嬢様の机に置かれている写真にはそのキャラにコスプレをするある人物が写っていた。いつもそれを嬉しそうに何かを見ているのは知ってました。嫌な予感はしました。それがまさかこんな形で訪れようとは。


「き、気づいてないんですかね。お、お嬢様は……」


 その写真に写るレイヤーさん。間違いない。以前、萌佳にバイトと称されてサークルの売り子として連れていかれたあの時の写真だ。


「こ、この写真……。私じゃないですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

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