第3話~私のお嬢様①~
私は『柊雪(ひいらぎゆき)』。地元にある西南大学に通っている大学生だ。そして同時に北条院という家系のメイドさんのバイトをしている。
家はあまり裕福ではなく、はっきりって貧乏。とはいえ父と母は今でもラブラブ。小学生の年の離れた妹もいるがその子も私と父と母が大好きである。
貧乏だから、時折学校のみんなが当たり前にしていることが少しできないこともあった。特に服やおめかしやショッピングなどが顕著だろう。
貧乏だから、中学校から学校に許可を貰い、バイトを始めた。ただそうすることで余計とみんなと遊ぶ時間も少なくて女の子の友達は全然できなかった、
高校にもなるとそれがかなり顕著で、何故か男子からはよそよそしくなり、女子は嫉妬の視線を常に浴びせられた。背が伸びたからやきもち焼かれたのだろうか。
うん、この時は周りの人たちの考えが一番意味が分からなかった時期だ。他の子に『すっぴんでも自分が勝ってるって誇ってるつもり?』と言われたことがあった。私は好きですっぴんなんかじゃない。けどそれで自分の家庭の事を言ってもあれである。その場ではしっかりと感じたことだけを伝えようと心掛けた。
ただ私はいわゆる天然というものらしく、その手の言葉を言われても返す言葉が思いつかず結局言うことは同じ。言ってくる女の子に『私はあなたの方が魅力的だと思う』と言ってにっこりと笑っていた。
すると言ってきた女子たちは顔を赤くして、それからというのも女子たちもよそよそしくなった。
そのため余計に孤独になってしまったのだ。だがその様子を観察していたと言って、私に近づいてくる女子がいた。いかにもオタクっぽい眼鏡を女子であった。
その子は学校の漫研の人らしく、その子との出会いがきっかけで私のある種の性癖が開発された。
私は今、大学のテーブルで学食のスパゲッティをまさにその子と食べていた。食べるのが少し疲れた私は、携帯の写真を見ながら当時の事を思い出していた。
「雪、何見てんの?」
「ふふん、昔の写真。萌佳と会った時ぐらいの事」
「どれどれ。ほうほう、あぁ、また懐かしいものを」
座っていた丸テーブルの椅子から腰をあげて携帯の写真を覗いてくるこの子。彼女の名は『赤坂萌佳(あかさかもえか)』。先ほど説明した高校から漫研に所属している女の子。お金的な理由により、私に機会がなかったサブカルチャーを教えてくれた人だ。
ただ見た目は当時とガラッと変わっている。少し赤毛気味に染めた髪をして顔もきれいでそして猫目である。格好は黒の革ジャンに膝ほどの長さのジーンズを着ており、ボーイッシュな感じである。
今日の私は、シャツとロングスカートという単純なもの。というかあんまり服が買えないのが現状で、萌佳のサークルの報酬で買ってもらってるのしか持っていないのだ。
そう、そんな彼女は今も漫画の活動は続けており、私も趣味も含まれるがバイトの報酬を目当てにして、絵をかいたりデザインしたり、売り子になったりと彼女ともに創作活動に明け暮れている。
「しっかし、あんたはこんときからお胸さんがでかいね」
「それは関係ないでしょ」
「んでもって男子をその身体で虜にしたことでは飽き足らず、あたいらの同類まで創り出したプロフェッショナルだったからねぇ」
「うーん、その時は意識してなかったけど、私って結構大胆なことを言ってたのかな?」
私が言った言葉に彼女は思わず、ため息をついた。その態度にむっとして萌佳を睨みつける。
「なによ?」
「あんたの天然は根っこから変わんないね。あんたは高校の時すっぴんで、あそこまでの美人だったんだよ。端正な顔立ちで、なにより金がないとかでよく先輩のおさがりの男子の制服も着てたでしょ?」
「それが?」
「背も高いし、そんな格好のあんたに『あなたの方が素敵よ』なんて言われたらそりゃドキッともしちゃうわ」
「そうなの? よくわかんないけど」
「だめだ。天然たらしはこれだから。まぁ、それ見たお陰で現実に希望が持てましたがね。百合が存在するんだと」
萌佳はカッコよく決めたつもりだったみたいで、すまし顔でこちらを見ていたらしい。しかしながら私はその時点で興味が薄れていた。
「あ、この時の萌佳眼鏡かけてる。しかも三つ編みだし、ちょっとださい、ははは」
「私の黒歴史の姿はどうでもいいから、人と話すときはまず顔をみなさい」
「ぐぅ」
その様子に今度は萌佳がいら立って顔を彼女の方に側に無理やり向かされた。
「確か、そんなことあったね。それで会って間もない時から言ってたよね。百合が最高って」
「そうよ!! 仮想空間にしか存在しない、2Ⅾでしか味わえないと言われていた百合が私のビジョンに出現した。これはあり得ないほどの衝撃だった。この子を手に入れれば私の百合道が開かれると思った。しかも案外ちょろそうだし簡単に引きずり込めるだろうと考えたわけ」
「本人を前にしてさっきから天然たらしだの、ちょろいだのひどくないですか?」
「じゃあ、百合は嫌いなの?」
いろいろ罵倒された挙句、最後にその質問を持ってくるなんて、なんてひどいやつだ。
「大好きです!!!!! とっても大好きです。大好物です。その節は本当にありがとうございました」
深々と頭をあげるしかなかった。
「よいよい。これからも感謝の念を忘れるでないぞ」
「ははぁ~~~~!!!」
とそんな馬鹿なやり取りをするのが彼女と普段の付き合いである。
「ところで、あんたが今バイトしているお嬢様。どうなの? 今日はあんまり言ってこないけど」
「もちろん、最高ですよ。あのツンツンした妖精様は」
「はぁ……」
「あの氷のように私を見つめる視線が今でも私を興奮させる。メイド姿で走るのは大変だったけど」
「あんた、さっき授業抜け出したとき、まさかあの格好でそのお嬢様の学校に行ったの?」
「そうですか。何か?」
「よく、そんな格好で行けるわね。その度胸は大したもんだわ」
「ま、まさか。でもお嬢様とはいつもその格好で接してるし。その格好ってそんなに変だった?」
「変どころか異常だわ」
「だ、だからあんなに引くような目を……。あぁ、ちょっと感じちゃいそう」
「変態だ。変態がいる。あんたが百合マンガのドSのキャラが好きなのは知ってたけど、これほどとは……」
「だってお嬢様は最高なんだよ。目つきは鋭いし、肌はすべすべで、ツンケンしてて、背もほどほどに良くて、威圧感がすごくて、癖っ毛で、ドSで……」
私はトークに花を咲かせるほどに、萌佳の表情が暗くなっていく。なぜだろうか。
「ちょいちょい、マイナスイメージがそのお嬢様に挟み込まれてくるけど、大丈夫なの? あぁ、いやむしろそれが雪の性癖か」
「そうよ。もう一度見る?」
「う、うん。何度も見てるけど」
私はそう言ってみうからのお嬢様である。北条院未祐(ほうじょういんみゆ)様を携帯越しに見せる。
「ねね、可愛いでしょ?」
「うん、まぁ確かにこれは可愛いけど。毎回同人の材料にはさせてもらってるけどさぁ……」
せっかく自慢げに見せたのに言葉を濁らせていく萌佳に疑問を抱く。
「なにか、言いたいことでも?」
「あんた無表情過ぎない? なんかこれもう完全な機械だよ」
「それについては事情があって」
「事情?」
「たぶんお嬢様に感情を出したら止まらなそうで、必死に感情を無にしてるの」
「あぁ……」
「でも今日のお嬢様の視線はやばかったぁ。エクスタシーしかけた」
「だから、あんたはそれを……」
萌佳がその言葉を言おうとした瞬間、彼女の携帯にラインの連絡が入る。それ連絡内容を見ると彼女は急いで席を立った。
「あ、そういえば今日家の買い出し当番だっけ。弟から連絡来た。悪い、今日はひとまずさよならかも」
「うぅん。全開に趣味の話を出来きたし良かった」
「そ、じゃあ。あたし行くわ。雪はこの後なんかあんの?」
「またお嬢様のお世話だよ。これからまたまた至高時間です。羨ましいでしょ?」
「はいはいっと」
萌佳は私の話を受け流し、テーブルの食器類に手を掴む。その瞬間何かを思い出したように私の方を向いた。
「そう言えば、さっきあんたが抜けた授業。ノートも出席も取っといたんだから貸しだかんね。次のイベントの売り子もよろしく。今度はお得意の王子様コスだ」
「うえぇぇ~~!!」
萌佳はそう言って笑いながら手で『サムズアップ』(グットマーク)をするとそのまま席を離れていった。
「ちゃっかりしてる。まぁ、いいやこれからお嬢様と会えるんだから」
彼女のしっかりとした性格に気圧されながらも、私は次の予定に胸を躍らせるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます