第5話~私のお嬢様③~
「失礼します」
静かに私は扉を開けて、挨拶をした。
私が入った部屋はお嬢様の部屋。そしてその部屋の机には授業の教科書を並べて、ノートに何かを記入お嬢様の姿があった。どうやら今日出された課題に取り組んでいるようである。
今は17時を過ぎたくらいだろうか。この時間は大体居間(というか大きな長細いテーブルがあるだけの部屋)でお嬢様は食事を取られるのだが、今日は自室で食べるから言われたのだ。
なので私は台車をからからと引いて、お嬢様の部屋に夕食を届けたのである。
だが扉を開けた瞬間、お嬢様はまるで威嚇するように私を睨みつけていた。
「なんであんたが来るのよ……」
そしてドスがきいたような野太い声で私に強烈な一言を発する。そうとう嫌われているようである。本当は好かれたいのだが、この人を見下すような冷たい視線がたまらない自分がいるのは確かなのだ。
「なぜとおっしゃいましてもお嬢様が自室でお食事と申しましたので、お届けした次第であります」
「確かに言ったけど、私はあんたには運んでほしいとは一言も言ってないわ」
「私もお嬢様に私が運んではいけないとは言われておりませんので、食事を届けさせていただいたんです」
私は冷静にお嬢様に返答する。たとえ毒突かれてたとしてもお嬢様に怯えて流されてしまっていけない。私たちはお嬢様のメイドではあるが、お嬢様の言いなりになる操り人形などではない。いう時はしっかりと発言するのもまた必要。
とはいえ今の会話は少し意地悪だ。お嬢様は確かに誰が運んでくるようには指定していなかったのだが確実に私だけは嫌そうな態度を毎度示しているのでお嬢様が不機嫌になるのは明白であったからだ。
「むぅ……」
しかし言い返した直後、お嬢様は少し頬を膨らませて少し怒った表情を見せた。
(か、かわいい!!!!!)
思わず、両手を口で押さえたくなるほど興奮しそうになったが、なんとか自身の感情を抑えて平常心を保つ。そして台車からきょうの料理を運んでいく。
「お、お嬢様。本日の料理のコーンスープとほうれん草のお浸し、それから鰈(かれい)のから揚げでございます」
「あ、……。ふん、そこに置いといて」
なんとなくだが多少お嬢様の顔つきが和らいだ感じがした。
(そっか、お嬢様ってお魚が好きだったっけ。それでうれしくなったのかな。やっぱりかわいい❤)
「なに私の顔をじろじろ見てんのよ。勉強がはかどらないでしょ」
「あ、申し訳ありません。すぐ下がりますので」
お嬢様の純粋なかわいさに我を失いかけた。やはりお嬢様は私にとって特別だ。このフリージング・ソウルもいつまで保てることだが。私はそそくさと台車の持って下がろうとした。
だが再び私はお嬢様の動きが目に入る。するとお嬢様は食事に手を付けずに、再び学校の課題に取り組もうとしていた。頭をうならせており、取り掛かっている問題が難しいようだ。
ふと私も目を凝らして問題を見てみる。どうやら数学の問題で、三角形の合同の証明みたいである。
「あぁ、なるほどそこが錯角になってるのですね」
ぼそっとその問題の肝の部分を思わずつぶやいてしまう。すると突然、お嬢様が驚いた表情で顔をこちらに向けてきたのである。
「あんた、この問題分かるの!?」
「あ、えぇ。はい。数学は昔から得意でしたので……」
「背に腹は代えられないか。あんた、ちょっとこの問題手伝って! 私このあとやることがあるの!!」
「は、はい。よろしいですが……」
今までの態度が嘘のように、急に求められて私はたじろってしまう。いままで積極的に来てくれることなんてなかったのに。
そういえば、あまりお嬢様の勉強を見たことがなかったっけ。
「本当はあんたになんか教えてもらいたくないけど、今日は仕方ないの。待ってて、少しトイレに行ってくるから、ちゃんと問題を分かりやすく教える準備をしなさいよ!!」
「か、かしこまりました!?」
お嬢様は急にやる気になったかと思えば、立ち上がり言葉通りに部屋を出て行ってお手洗いに向かってしまった。
バタンと扉を閉まる音が響くと、どたどたと走る足音が遠ざかっていく。そしてそのままひと時の静粛が訪れる。
「なぜでしょう。お嬢様の様子がいつもと違うような。いつも通り嫌そうではありましが、私にこんなに頼ることなんてありましたっけ? 勉学の口出しは確かにしたことがありませんでしたが……」
唐突なこの感じ。なんだかもやっとする。
「そしていままでお食事は帰ってすぐに居間ですぐにとられてましたのに。不思議ですね」
もやもやとお嬢様の不審な行動に違和感を感じながらもお嬢様の机の正面に移動して、数学の問題を見ようとした。
「うん?」
するとふと机の奥にある小さなものを見つけた。
「う、うそ!?」
それを発見した瞬間、私は両手で口を押えてしまった。
「な、なぜお嬢様がこれを……。この写真と!? こ、このフィギュアはましゃか……」
そのまま驚きのあまり、後ろへと下がっていってしまう。
「お、お嬢様がなぜこれを……」
それを見つけてしまった私は、全身から嫌な汗が噴き出して精神状態は絶体絶命のピンチを迎えてしまった。
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