第8話〜私の学校恋愛録①〜

6月中旬



 私たちは何を見ているのだろうか。


 ここは図書室。私こと、北条院未祐(ほうじょういんみゆ)は友達である萩原萌(はぎわらもえ)と共に6月末のテストのために勉強に来ていた。


 しかしながら私たちは衝撃的な場面に出くわしていた。



「うぅぅ❤ うぅん❤ みのり先生」


「雪(ゆき)❤」




 私たちは図書室の裏側の扉にあるロッカーの中でこっそりとその現場を目撃する。誰もいなくなった部屋で、真ん中にいる女子二人。一人は図書委員長で三年生の飛鳥雪先輩。そしてもう一人はなんと私達のクラスの担任の飯島みのり先生だ


 そんな二人がなんと激しく口を合わせて接吻していた。


『ねぇ、萌。私たちは今何を見てるの?』


『そ、そんなの。見ればわかるよ。き、き、キスしてるよ』


 二人には聞こえないように小声で私たちはその光景について話している。


 普通ならちょっぴり甘酸っぱい青春の一ページになりうるかもしれない。しかしながら妙と感じるのはやはり女の子同士という点であろう。


『やっぱり女子校だとこういうことも起きるんだなぁ』


『アニメとかマンガとかだとこういうのって百合いうんだよね、未祐』


『現実で見るのは初めてだけど』


 だが驚くべき事はそれだけではなくこの二人の組み合わせだろう。女子同士に加えて彼女らは先生と生徒なのである。




「雪、かわいい❤」


「せんせい❤ ふあ、だめです❤」






『未来、なんだかすっごくエロイね。気まずくなってきたんだけど』


『確かに。見てしまっていいのかという罪悪感であふれてきた。でも出れないし』



 見ていくうちにどんどん激しくなりそうな予感がする。とてもやばい。





 さてと少し前置きが長くなってしまったけど、いったいなぜ私たちは非常に難儀な状況に置かれているかを説明しようと思う。


 それは数時間前にさかのぼる。





★★★★★★★★






「あぁ、勉強嫌だぁぁぁ~~~!!!」


「はい、個々の問題解けたら言ってね」


「先生わかりません。寝てもいいですか?」


「寝たらたたき起こしま~す」


「ふえ~ん」



 私たちは図書室で月末のテストの勉強をしていた。


 私たちの通う『赤百合女学院』ではこの時期にはテストがある。基本的には夏休み前の7月の後半に行うところが多いものだが私の学校は私立のお嬢様学校で社交界やらなんやらの関係で夏休みが早くそして長いのである。というわけで6月の末はもう夏休み前なのでテストがあるわけだ。


 ただし、私立高でけっこう理事の人は好き勝手にやっているイメージだが成績は重要。テストで赤点でも取ろうものなら、夏休みの半分は補修地獄が待っている。


 私はなったことがないが、いま側にいる萌はそれの常連みたいなのだ。いつもならほっとくのだが今年はコミックスマーケットがあるため私が勉強を教えているのだ、この学校の図書室で。


 しかしながら毎日毎日決められた下刻時間まで図書室にこもりっぱなしだ。こちらとて疲れてくる。


「ねぇ、今日はこのへんで終わろうよ。このままじゃコミックスマーケットまでに頭がパンクしちゃうよぉ」


「大丈夫、その時は私があんたの骨を拾ってあげるから、がんばりな」


「もう、私は死ぬ前提なのですか……、ふん」


 でも嫌にならないのは、この子がほっとけなくて可愛い所などもあるのだろう。


『あと、あのレイヤーさんに会いたいし』


「なにか言った?」


「い、いやなにも!?」


 なぜか声が漏れていたらしい。思わず口を塞いで誤摩化すことにした。萌はキョトンとした顔を浮かべていたが、そのまま机に広げられた参考書を見始めた。なんだが最近の私は変な気がする。




「あら、今日も精が出るわね」


「あ、飯島先生」


「やっほぉ〜、みのちゃん」


「もう、萩原さん、先生なんだから飯島先生でしょ」


「は〜い」


 目の前に現れたのは、私達のクラスのタンニンである飯島みのり(いいじまみのり)先生だ。年齢は26歳で比較的若い。のに若干落ち着いており、ゆったりとした人だ。髪は天然パーマが入っているショートヘアで、なかなかにお胸も大きい。アニメや漫画みたいな露骨なものじゃないけどね。


「どうしたんですか? 先生、ここに用事でも?」


「いやね、大した用事じゃないんだけどそのついでにね。ほらあそこにいる目付きが悪い受付にどっしりと居座っている女の子がいるでしょ?」


 わたしと萌は先生に言われたとおりに受付にいる子を見てみる。そこにいたのは図書委員長で3年生の飛鳥先輩であった。こちらが見ているのを気がつくと鋭い眼光でこちらを睨みつけて来たので、すぐに顔を戻した。


「みのりちゃん、目つきが悪い女の子っていうのは当たってるけど先生が言っていいの?」


「確かに」


「まぁ、そこらへんは気にせずに。私はあの子に言われたのよ。あなた達が騒ぎすぎだってね。ていうかけっこうあの子厳しくてね、他の生徒にもびしびし指摘してるし」


「まぁ、あの人のことは入学してからいろいろ注意されまくりましたからね主に萌が」


「そうなんだよね、飛鳥先輩って厳しくて」


 厳しい理由はあえて言わないでおくが、人当たりが厳しい人なのである。しかしそんな人がなぜ担任の飯島先生を介すのであろうか。そんな疑問を察したのか飯島先生は質問もしていないのにこちらが知りたいことを話してくれた。


「本人も気にしてるのよね。厳しくしちゃっていいように思われていないこと。でもやっぱり図書館を騒がす人は見過ごせないし、静かに読書を楽しむ人の迷惑になるからって。だから私が他の生徒にも代わりに伝えてあげてるの。先生なら指導するのは普通でしょ?」


「なるほどねそういうことですか」


「そう思うとちょっと飛鳥先輩もかわいそうだね」


「はいはい、私はそういう同情をさそったつもりはないんだけどね。そう思うならせめてあの子に負担をかけないであげてね。じゃあ、私はまだやらないといけない仕事があるから職員室に戻るね。そろそろここも閉まるからあなたたちも変える準備しなさい」


「「は〜い」」


「……ふぅ」


 私達が間の抜けた返事をすると、先生は少し呆れた顔をしつつため息を吐く。たぶん分かってるくれてるのかなの思ったんだろうな。でも先生も私達のことは多少は理解しているみたいで最後には軽く笑ってくれた。そしてそのまま図書室を出ていくのであった。


「じゃあ、私達ももういくか」


「そうだね、帰ろう」


 ちょうど放課後の知らすチャイムも鳴り始めた。なので荷物をまとめてとっとと退散する。




 はずだった。



「あ、筆箱忘れちゃった?」


 下駄箱にまで行ったときにそこで萌がそんなことを言い出したのである。


「えぇ、めんどくさいなぁ」


「ねぇ、着いてきてよ。たぶん図書室に飛鳥先輩が残ってるから、こわいよ」


「ったく」


 いつもの教室の忘れ物なら玄関で待っているが、同じ空間にいるのが萌の苦手なあすか先輩ともなると確かに気まずそうだ。別に私も急いではいないので萌と一緒に図書室へ戻ることになった。


 とはいっても図書室は下駄箱が置かれている階の上の階にある。なので少し手間である。お嬢様学校なのでエレベーターも完備じているが、ひとつ上の階なら使うまでもないだろう。


「じゃ、行こっか」


 そのときであった、職員室に戻ると言っていたはずの飯島先生が上に向かっていく姿が見えた。


「あれ、みのりちゃん。なんで上に行くんだろ?」


「おかしいね、どこにいくんだろ?」


 疑問を抱きながらもとりあえず先生は無視して図書室へ向かおうとする。しかしながらなぜか向かう方向は私達と一緒で、しかも先生はそのままもう閉館してだれもいないはず図書室へ入っていった。


「え? なんで、みのりちゃんがここに?」


「わ、わかんないよ」


「ちょ、とりあえず後ろの扉から」


「ちょ、ちょっと萌!?」


 ものすごく先生の行動が気になった萌は、私の手を取る。そして先生が入っていった奥の扉とは別の手前側の扉をゆっくりと開いた。


「未祐、ここにロッカーあるよ、ここに入って先生が何してるか見ちゃおうよ」


 扉を開くと丁度いい位置にロッカーがあった。それも都合が良すぎるくらいに図書室全体を見渡せるポジションにあった。


「もうじれったい、急いで入るよ、ばれちゃう」


「はぁ?」


 先生は図書館室の真ん中にまで歩いていくのが見えた。ただ声や物音を出すとばれてしまう。そうなることを予感した萌は、私をすぐさまロッカーへと引き込んでしまったのだ。




『強引すぎ! 何してんの?』


『し、ちょっと見て!! あれ!』


『あれ?』



 私は萌に促させて指を指した方向を見た。


『え!!??』





 その時目に入ったものはまさに衝撃的な光景であった。



「雪、ちょっと遅れちゃった」


「うぅん、大丈夫です」



 そこにいたのはあの図書委員長の飛鳥先輩。だがいつものきびしそうでするどい眼光を放ついつもの顔ではなく、その顔は恥ずかしそうに頬を赤らめていた。そして驚いているうちに二人は抱き合っていた。


「ちょっと、どういうことこれ? どういうこと? 未祐!」


「私に聞いてもわかんないよ!!」


 驚いて取り乱しているが、それでも本能的にバレたくないためか自然と小声で会話している。だが色々と揉めているうちに行為は進んでいく。



「ふあ❤ 先生、うぅ」


「だめ、もう我慢できないかも……」


 先生は軽く飛鳥先輩の頭をなでると、そのまま唇を合わし始めた。


「うぅぅ❤ ううぅん❤」


「うぅん、先生ぃ、うぅ❤」






『未祐、あれって、キスしてるよね。どういうことどういうこと』


『私に聞かれてもわからないわよ』



 なにがなんだがわけがわからない。


 そんなわけで私達二人はロッカーに閉じこもって、この光景を眺めることになったわけである。

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お嬢様とメイド フィオネ @kuon-yuto

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