本を紹介する時

 授業の一環で、面白い本をみんなの前で三分間スピーチをする機会があったのですが……散々でした。


 三十秒で本の紹介が終わりました。

 練習はもちろんしていません。カンニングペーパーの用意さえしていませんでした。


 それでも、その本がどんな内容でどこがポイントでどんな人にオススメなのか説明できれば、一分程度は稼げたはずです。

 しかし当時は、本の紹介を二、三行しただけで固まりました。


 そのとき紹介した本は九 星鳴 さんの『K体掌説』です。

 幻想的で余韻の残る掌編小説です。短時間で幻想的な文体を味わい人にオススメします。

 ……はい。説明は以上です。

 他に紹介する部分はありません。


 これは口下手というレベルではありません。

 今だからわかります。

 そもそも三分間も紹介する本として適切ではありませんでした。


 先生は面白い本を用意せよと言ったけれど、あれは罠です。三分間スピーチできる本を持ってこいと言うべきだったのですよ!

 この本が好きだからではダメでした。みんなに紹介できる本を選ぶべきだったと後悔しています。


 ちなみに、純文学を好んで読む友人は、あまり読まないミステリーの本を時間いっぱいに説明していました。

 「好きな本」ではなく「三分間喋り続けられる本」を選んだことは言うまでもありません。






 今でも図書館に頻繁に行きます。

 タイトル表紙、やパラパラめくって、なんとなく良いと思った10冊を借りたとします。


 そのうち面白い本が8冊だったとして、じゃあ人に勧める本が何冊かといえば……1冊あるかないかですね。

 

 個人的には興味深い本だけど、良さを文章にまとめられなかったり、そもそも人に勧めるほどではないと判断したり、理由はいろいろあります。


 たとえば、最近読んだ面白かった本を取り上げてみますね。



『ウィリアム・ハーヴィ〜血液はからだを循環する 』


 ポンプ(心臓)と循環(血液)について書かれた本。文章がうまくて、一気に読んだ。理路整然とした思考や仮定からの検証など、賢い人の頭の中をのぞいたような新鮮さを感じた。



『紙の本~装丁道場 28人がデザインする『吾輩は猫である』~』


 「いろんな人が『吾輩は猫である』のブックデザインをしてみたら?」という試みの本。猫らしさをデザインしたり、近代の文豪を表現したり、いっそのこと現代風にアレンジしたり、作り手の個性がでていて面白かった。



『カレンの台所』


 いちおうレシピ本として出版されているけれど、料理を作りたい人にはすすめられない。分量は書いていないし、作り方の文章が物語になっている。斬新で面白かったけど、レシピとしての役割を果たしていない。



『黄金の丘で君と転げまわりたいのだ 〜進めマイワイン道!〜』


 ワインをたしなむ本。作中に登場する人々がユニークで始終笑っていた。ワイン云々より、それ以外の部分、特に人間模様が好きだった。この作品は全体的に愉快で笑える。



 「面白かった」という感想なら書けます。

 ただ人に勧める文章はなかなか書けませんね。

 そもそも小説しか読まない人にこの4冊を紹介しても「そんな本があるんだ」で一蹴されます。

 すすめるのかで、おすすめする本のジャンルは偏ります。




 カクヨムでおすすめレビューを書く時、「私は面白かった」はいけます。

 たまに作者や作中のキャラにメッセージを送ったりもします。

 「ぜひ読んでね」で書こうとすると……頭が痛くなります。

 

 悲しいかな。自分の書いたおすすめレビューでは誰も読みたくならないですよ。



 感想が欲しい人って、どんな感想を求めているのでしょう。

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