連なる世界で、命を繋げ

 異世界転生、あるいは転移、または旅行―――流行りだの廃りだの言われるそれを、物語に触れながら一度も夢見なかった人が、果たしてどれだけいるであろうか。我々の世界と物語の世界が繋がる奇跡―――本作はそんな夢のようなテーマを掲げつつ、しかし決して甘くはない。
 本作の世界観では、小説やゲームなどの架空の物語は、作者が無意識的に観測した"実在する"異世界での出来事であり、そんな数多の異世界と我々の住む所謂"現実"の世界が繋がっている。特殊な状況下においては様々な世界に足を運び、憧れた場所に立ち、恋い焦がれたキャラクターに会うことも可能ではある。
 そんな無数の世界を股に掛け、武器や薬物を売り捌き、文字通り"世界観を破壊する"謎の組織が活動している―――というのが、本作の『世界』が抱える最大の問題である。
 そんな途方も無いスケールの犯罪に巻き込まれて、"現実"から弾き出されてしまったのが主人公の遠野観行である。偶然にも犯罪組織の謎に迫れる条件を満たした彼が、世界間での捜査を行う『多世界犯罪捜査局』に協力を要請されるところから、本作の『物語』は本格的に始まる。
 夢のような物語が現実である世界で、胸躍るような展開に巻き込まれながら、しかし遠野観行はあまりにも普通だ。現実への未練も、異世界への適性も、知恵も力も並である。そんな彼だからこそ、犯罪の被害者を普通に思い遣り、協力の報酬に手を伸ばす場面には、強く共感できるものがある………と、私は思う。
 あまりにも夢のような世界観で、あまりにも普通な少年が、何と出会い、何を思い、何を為すのか。その行く末が少しでも気になったのならば、この『物語』と繋がってみては如何であろうか。

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