優れて、象徴的な名タイトル。

『君のこころに咲かせる華はどんな色がいいですか?』というこのタイトルが、まず秀逸。言うまでもないことですが、すでに膨らんだ蕾が開くのを待っている段階なら「どんな色」なのかわかりません。咲く花の色を決めるのは、最初に種を撒き、球根を植える人。「どんな色がいいですか?」という言葉は「種を撒く人」だけに許される問いかけなのです。主人公もまたそんな一人。何とかして狙った花を咲かせようとして、種を撒くところから……いや、土を耕したり植木鉢を買ってきたりするところから始める「造園家」です。
 当然その後の世話も必要になります。主人公は初心者です。だからこそ手を尽くし、悩み、時に静かに見守り、場合によっては花に語りかけたりしつつ、一生懸命、育てるのです。狙い通りにいかないで別の花が咲いたり、ある瞬間、思いがけず咲いている花に驚いたり。苦労は尽きません。
 そんな物語を見ていると、花を育てるということは、主人公自らの内にも花を育てることなのではないか。そんな風に思えてきます。そして。
 主人公が願う花が「花は野にあるように」の譬えのような「あるがままの自然体でありながら出会う人を幸せにする花」なら、そろそろ、本当の試練が訪れそうな気がします。

 ……そんなことになったら、とても落ち着いてレビューなんぞ書いていられないので、今のうちに書いておくことにします。

 いや、いいんですよ! このままのったりまったり、二人で肩寄せあって花が咲くのを待っていてもいいんですよ! でも、いろいろ読んできた経験が警報を発しているのです。
「そろそろ、くるぞ」
と。

 願わくば、主人公とヒロインが、同じ花を見て笑えるエンディングでありますように。
 そしてその時、ラストシーンで目にする言葉が、この素晴らしいタイトルのようであればいいな。と心から思います。

注:このお話は、植物学者や樹医、造園業者や植木職人の物語ではありません。あらかじめご承知いただき、本編へお進みください。