地球の墓
青澄
地球の墓
ある所に探検家の男がいた。男は今まさに新たな冒険を始めようとしていた。北のはずれの小さな島の地下で、巨大な遺跡が見つかったのだ。
その知らせを聞いたとき、男はすぐに調査を始めようとしたのだが、すぐには出来ず、十年以上待たされることになった。その土地に数百年前から住む先住民が激しく抵抗したからだ。
彼ら曰く、地下の遺跡に足を踏み入れた者には等しく死の呪いがかけられるという。
男はそういう類の迷信を信じる者ではなかった。親しい権力者に協力を頼み、金と力にものを言わせ、仲間を募り、あらゆる手段を使って先住民を丸め込んだ。島の先住民にとっては侵略にも等しい行為だったが探検に取り憑かれた男が知ったことではなかった。
島に短い夏が訪れた。男は仲間と共に地下へ踏み込んだ。冷えた重い空気が漂うトンネルの中を進んだ。
壁も床も平らで滑らかに磨かれて、進む方向に向かってわずかに傾いていた。
トンネルはどこまでもどこまでも続いた。暗闇は侵入者を歓迎することなく居座り続ける。まるで数百年ぶりに訪れた命を拒むように。
水や食料は地上にいる仲間が運んだ。
トンネルに入ってから数日が経ったとき、男が休憩を取っていると、一番若い仲間が駆け寄ってきて言った。
「脇道に入ってみたら、たくさんの縦穴がありました。一つだけ塞いでいるものが錆びていたので、取り除いて中を覗いてみました」
「何があったんだ」
男は問いかけた。
「たくさんの金属で出来た四角い箱です。開けることはできませんでした。もしかすると、中身は金になる財宝かもしれませんね」
男は考えた。このトンネルは、大昔の人々が何か大切な物を戦火から守るために作ったものかもしれない。そうでなければ、我々のような未来人への贈り物として眠り続けていたものか……。
男の顔には隠しきれない笑みが浮かんでいた。
この探検が終われば、自分は大金持ちになれるかもしれない。豪邸に住み、欲しいものをすべて手に入れ、誰もが羨む理想の暮らし。それがもうすぐ自分のものになるのだ。
男はにやりと笑った。
トンネルに入ってから、二週間が経った。
男と仲間達は広い大きな部屋へ出た。四方を石で囲まれた墓のような部屋だ。
男は明かりを部屋の壁へ向けた。一面に様々な種類の古代文字で文章が刻まれていた。
「何だ……これは……」
男が訝っていると、離れたところにいた仲間の一人が悲鳴を上げた。恐怖に取り憑かれた凄まじい声だった。
男は仲間のもとへ走った。大学で考古学を学んでいた者だった。仲間は跪き、震えながら嘔吐した。
「どうしたんだ!」
仲間はゆっくりと腕を上げ、震える指で目の前の壁を指した。
男は壁を照らした。男にも読める言語で文章が記されていた。
「来てはいけないと言ったのに、あなたは警告を無視してここへ来てしまった。
すぐに引き返しなさい。
ここは放射性廃棄物の最終処分場だ。廃棄物が環境へ影響を及ぼさなくなるまでの十万年、私達はそれらをここへ封じることにした。
ここにあなたの役に立つものは何もない。
あなたには感じることはできないが、見えない毒はすでにあなたの体を貫いている。目には見えない、匂いもない。その光は私達をこの世で最も愚かで凶暴な生き物に変えてしまった。
今すぐ地上へ引き返しなさい。そして二度とここに戻るな。
我らの文明、そして地球の墓は永遠に眠り続けるだろう。
あなた達が、私達よりも平和でより良い世界を築いてくれることを願っている。」
こみ上げる吐き気が恐怖によるものかそれともそうではないのか、男にはもうわからなかった。
地球の墓 青澄 @shibainuhitoshi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
読書記録 Myノート/青澄
★14 エッセイ・ノンフィクション 連載中 57話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます