終章

エピローグ

 ローレンの駅に着くと、ホームにはディアマーレ行きの列車と、アントワーヌ行きの列車が向かい合わせに止まっていた。


「ディアマーレに行くの?」


 シャルロットがアーサーに尋ねると、


「この人形を届けたいんだ。元の、彼の家族がいた場所に」

「そうなのね。たまには、風の国にも顔を出しなさいよ。その時はまた、一緒にお茶でもしてくれたら、嬉しいわ」

「うん、もちろんだよ」


 アーサーはそう言うと、フランシスの方へ顔を向けた。


「フラン兄さん、またいつか……会えるかな」

「もちろん会えるさ。アーサーの誕生日に会いに行くよ」

「本当に?」


 アーサーは満面の笑みを浮かべた。フランシスもつられたように微笑む。


「ああ、必ず。落ち着いたら、手紙を書くよ。アイビス様にも挨拶をしないとな」


 フランシスはアーサーの頭を優しく撫でた。


「待っているね、兄さん」


 アーサーは、皆との別れを惜しみながら一人、ディアマーレ行きの列車へ乗った。






「ここでいいだろうか……」


 そこは、かつてカストの住んでいた実家――カストの記憶で見た場所――の跡地の前だった。

 アーサーは、運んできた人形を埋め、雲一つない青空を見上げる。

 森を抜け、ラントの街から始まった今回の長い旅路を振り返る。初めて経験した異国の地での出来事や人々との出会いが、アーサーの頭の中で走馬灯のようによみがえった。


(本当に色々なことがあった。次から次へと色々あって、戸惑いや恐怖……色々な感情で押しつぶされそうになった。今回一緒に旅をした仲間――皆と出会えて、本当に良かった。皆がいなかったら、僕は今頃どうなっていただろう。フラン兄さんを助けるなんて、夢のまた夢……だったのかもしれない)


 カストから受け取った二つの指輪を握りしめる。


「けれど、本当にこれで良かったのだろうか……」


 アーサーは胸の内を吐露した。誰もいないと分かっている忘却の丘で――。


「カストさんの魂を救うことは出来たのだろうか。他にもっと、うまいやり方はなかったのだろうか。本当は誰のことも傷つけたくはなかった。それとも、ただの理想にすぎないのだろうか……」


 ――眩しい、ねぇ。


 炎の中で漏らしたバルトロの最期の言葉……彼の死に様がアーサーの胸をしめつけた。

 だが、それと同時に――。


「だからてめぇは甘いんだよ!」というリン・ユーの言葉が頭の中をよぎる。


「こんなことを言ったら……またリン・ユーに怒られそうだな」アーサーは思わず苦笑いを浮かべた。


 懐中時計で風の国の方角を確かめ、体を向ける。

 身分の違う、遠く離れた場所で暮らすことになった、唯一無二の兄弟のような存在――大切な人に思いを馳せ……。


「フラン兄さん! 随分と遠くに離れてしまったけれど、またあなたに会いに行きます。必ず――」


 フランシスへの思いを胸に、忘却の丘を後にする。

 そして――。


「僕も帰ろう。家族たちの待つ我が家へ」


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

時の旅人~CROWN~ 櫻井 理人 @Licht_S

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ