主人公アーサーは、一貫して「兄さんを助ける」と、強く無垢で純粋な意思を持ち続けています。
それが強みで魅力で、行く先々でアーサーに力を貸す者──仲間が増えていきます。
アーサーと話していると、なんだか徐々に協力したくなってくるのかな、と。
外観だけではわからない中身にこそ、人々の輝きや希望が詰まっている。
そしてそれは時として絶望や怨恨の火種になって、操ってしまおうと思い始めてしまうのかもしれない。
この物語は、敵も味方も深い想いを抱き、いつだって『誰かのために』したかったことを目指していました。
アーサーは、みんなは、胸に抱く誰かのために、今日も行く先を進みます。
その強い想い、悪しき思惑に打ち勝たん──!
時に干渉する力を持つ「懐中時計」と、願いを叶えるという「ストーン」を軸に展開される、時を超えた中世風ファンタジー。
時の民である主人公のアーサー少年が、何者かに連れ去られた友人の行方を追うため、故郷を旅立つところから物語は動き出します。道中で敵対勢力に出会い、それを切っ掛けにして仲間を得、やがてこの事件の真相を知っていく……という王道展開です。
文章には幾らか不慣れな印象を受けますが、丁寧な構成がされており、慣れてくるとすんなり読み進められました。
敵も味方も、人や人外も、たくさんのキャラが登場しますが、それぞれに願いがあり、信念があり、事情があり……と、魅力的な見せ場が用意されています。各自が持つ特殊な能力もさまざまで、それらを織り込みつつ終盤へ向けて物語が盛り上がっていき、最後まで楽しんで読むことができました。
ラストはあっさり風味ですが、第二弾も準備されているとのこと。
今作では出番の少なかったキャラに次作でスポットが当たることを期待できそうです。
長編ですが10万字と短めですので、「中世」や「懐中時計」、「人形」や「錬金術」などのワードにわくわくする方は、ぜひ読んでみてください。