ゾンビ日記

ぱーりーないつ

ゾンビ日記


六月三十日

相変わらずゾンビとの追いかけっこが続いている。人間の作った様々なメカニズムは管理する人間がいなくなったことで壊滅した。テレビもラジオもインターネットも。携帯もすでに繋がっていない。文明の繁栄はこうも容易く朽ち果てていくのだとまざまざと見せつけられた。

手元に残ったのはアナログだが、確実に手元に残るノートだ。高校時代によく使った奴。少々かさばるが、知能のある人間として、日付ぐらいは覚えていたい。覚えていても意味は無いのかもしれないが、人間が作り出した太古の昔から存在する「暦」を記すのも悪くない。


七月一日

暑い。地球温暖化は容赦なく肌を焼き付けてくる。ここ数年は著しく夏場の気温が上昇していた。40度を超えるのが当たり前、熱帯夜の日が年々増えているとテレビがまだみれた時に聞いた。電気が通らずエアコンも動かない今、毎日が暑さとの戦いだ。拠点にはなるべく水場が近い場所を選んでいる。

その点、ゾンビはうらやましい。暑かろうが寒かろうが、もうそれを感じることはないんだろうし、地球がこのまま温暖化を続けていったら、生き残るのは、きっとゾンビなんだろうな。


七月二日

ゾンビをみても落ち着いて行動を起こせるようになっている。驚き疲れたのもあるし、対策も覚えたからだ。

昔、まだこの世界にゾンビなんて存在しなかった頃、何かの本で読んだことがある。ゾンビはそもそも腐っており、知能もなければ、動作も遅い、ならば戦え、生きている生身の力に腐りきったゾンビがかなうわけがないのだ。戦えば生きて力も知能もある君たちが勝つ、と。

読んだ当初は、ホラーの意味ないだろと大笑いしたが、ゾンビを目の前にしてとる行動としては適切すぎるアドバイスだった。現に、俺はこうして生き残っているし、それもこのアドバイスを忠実に再現した結果だ。


七月三日

夜に襲ってきたゾンビの残骸が寝床にしていた家の前に散乱している。金属製のバットを頭蓋にたたきつければ、あっさり頭は吹っ飛び、体はばたりとその場に倒れた。頭がなくなったくらいではよみがえることもあるらしいので、頭体ともども、バットで叩き潰しておいた。さながらゾンビのたたきだ。太陽が容赦なく照りつけるおかげで、腐りきった肉が焼けているのか異臭がする。この場所もそろそろお暇する頃合いか。


七月四日


七月五日


七月六日


七月七日

七夕。だったな、そういや。


七月八日

日記、つづかねえなあ。


七月九日

日付だけでも書けば、今日が何日かわかるからいいかもしれないな。


七月十日


七月十一日



八月一日

夏真っ盛り。今年、50度越えてるんじゃないか。体感。みんなが生きてれば海にでも行って満喫したんだろうなあ。

ゾンビから逃げて数ヶ月、人間にすら会ってない。地球上に生きてるのは、もう俺だけなんだろうか。いや、どっかにはいるだろ。あの本を読んでゾンビぶっとばしているような奴がさ。


八月二日

川で水浴びしてたらゾンビが来た。でかい石をぶつけてつぶしてやった。腐った肉がとびちった。もともと、人間だったとか感傷を思う心境にもならない自分が、なんだかな。


八月三日

やっちまった。水場から離れたところでゾンビの奴らに囲まれた。今は近くにあった建物に飛び込んでいる。建物の扉を開ける知識もないから奴らは入ってこない。でも、外にもでれない。どうしよう。


八月四日

奴らがいなくならない。数が増えてる。


八月五日

みず。ほしい。


八月六日


八月七日


八月八日



八月百十日


八月百十一日


八月百十二日




八月二百二日


散弾銃をたたき込んで一発、ぐしゃりとつぶれたゾンビの顔から濁った体液が飛び散った。続けざま体へと打ち込まれていく数多の銃弾が朽ちていく体をさらにでこぼこに蝕んでいく。重力のまま地面へと倒れ伏した亡骸が立ち上がらないことを確認して、一息。

「これ…」

ふと、今のゾンビが大事に抱えていた物を拾い上げる。学生時代によく使っていたメーカーの名前が見て取れた。ノートだった。ピンク色の表紙はすでに土埃と腐った体液がついて元の色をとどめていない。ゾンビがノートを抱えているという珍しい現象に中をみてみると、延々と日付のようなものが記されていた。八月から進まないカレンダーの日付だけが更新されていっている。はじめの方には日記のような物も記されていた。

先ほどのゾンビは、持ち主だったのだろうか。ただ、もうずいぶん前にこの世にはいなくなったのだろう。そのはずだが。記された八月の日付から目算すると、

「今日…?」

日付に滑らせた指に乾ききっていないインクが擦れて紙に跡を残した。


               《了》

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