第2話 幼児期はさくさくスキップします
◇◇◇◇◇
トラックにはねられた俺が転生したのは、どうやらいわゆる中世ヨーロッパ的な異世界らしい。そして俺の新たな立場は地方の貴族、アシュフォード男爵家の三男、グレイ。周りの反応や父親の顔からしても、どうやら俺って結構イケメンっぽいんだ。やったね!
そして何より楽しみなのは、この世界には何と魔法があるのだ!
電球の変わりに部屋を照らすのは、ガラス瓶に灯るいつまでも消えない炎。
俺のお世話をしてくれてるメイドさんが手をかざすと、瓶の中にこの炎がうまれたんだ。
これ魔法以外にないよね。
それに俺自身も意識を集中させるとお腹の中に何か巡っている感触がある。多分これが魔力とかだと思うんだ。
今はベットから出られずあぶあぶとしかしゃべれない俺だけど、この魔力を制御する修行を始めておけば、かなりアドバンテージになるんじゃない?
さあ、今度の人生、リア充として満喫するぞ!
――――――第2話 『知らない天井って何のネタ?』◇◇◇◇◇
「…………っていう感じで始めさせていただいたところですね」
女神さまが創って俺たちを送り込んだ世界はまさかの俺がこっそり書いてた異世界小説の舞台だった。
そして俺は主人公であるグレイ・アシュフォードとして少年時代を過ごすことになった。そんで俺が話しかけてる琴姉ちゃんは、今世ではグレイの妹であるネリィ役を務めてる。
まだ小さな幼児の身体の姉ちゃんはベッドでシーツにくるまりながら小さな目で見上げながら言った。
「うん、まあ知ってるけどね。私、毎回感想送ってたじゃん」
「あっ、はい、@limlimさんいつもありがとうございました。こまめな感想やハートや☆レビューも嬉しかったですね。こう、スマホを開いてアプリに感想やハートの通知マークがついてるのを見るだけでもうテンション上がって、その日一日が幸せに過ごすことができました」
いつも俺のモチベーションを上げてくれていた@limlimさん。
まさか姉ちゃんがゴンだったなんてな。
「あんたがこそこそ叔父さんのパソコン触ってるから絶対エッチなの見てるなって思ってチェックしたらまさか小説書いてたとはね。ほんと驚いたわ」
受験勉強の合間に気楽に気分転換できるからネットの異世界小説読んでたら、自分でも書きたくなっちゃったのだ。
受験終わった春休みに一気に10万文字くらい書き上げて、その後も買ってもらったスマホを使い定期的に更新している。
そんな人気はないけど、姉ちゃん以外にも少数だけど応援してくれる読者がいるんだ。今は中間テストを控えてちょっと更新サボってるけど。
「俺はむしろ最初から知ってた姉ちゃんが、今までいじらずに我慢できてたのにビックリだよ」
「んー、人が真剣に楽しんでるのをちゃかすのはさすがにね。それにおっぱい大きくてメガネのポニーテールのヒロイン登場して、ここまでヒロトの性癖全開にされちゃうと、逆にもう突っ込めなかったわ。おいおいコイツなに妄想してんだよって」
今は銀髪ストレートの幼女となった姉ちゃんが、にやにやとした笑みを向けてくる。
「う、うるさい……」
あれ、でも俺はヒロインがメガネのポニーテールなんて書いた覚えはないけどな。それじゃあ姉ちゃんじゃん。たしかに髪を束ねるリボンとかには触れたけど、サイドテールのつもりだったし。
目が少し悪くて顔をしかめるせいで睨んでるってよく誤解されちゃって、主人公がメガネしなよって突っ込み入れたり、王都に行ったら買ってあげるって言うシーンはあったけど。
いいよね、目つき悪い女子。この設定だと冒険者ギルドにいくたびにかませ冒険者に絡まれるっていうテンプレイベントが自然に起こせるんだ。
それに後で主人公が開発した身体強化魔法で視力を治すっていう伏線なんだ。
「でもまさか俺の小説が書籍化すっとばして異世界化するとはねー」
ゲームや小説の舞台ってよく異世界になるってイメージあるけど、そういうのってミリオンセラーのゲームとか商業出版されてるような小説だけだと思ってたよ。
正直俺の作品って星二桁のマイナー作品だからね。
と思ったら俺たちを呼び寄せた縁で、あの白い空間でさくっと創った世界だって言ってたけど。
『そんなあっさりと!?』
『いやあ、誰かがすでに創造した世界って断然異世界化がカンタンなの。もうコスパ段チ』
『でもこういったら何ですが、俺以外に需要あるんですか?』
『将来性に期待してるんですよ。といいますのも――――』
何でも女神様とそのお仲間は
ただ俺の小説ベースみたいな異世界は一から作った世界と違い、構造が脆いのと中の住人がまだ魂が宿っていない仮の存在だそうで。
そこで外部の魂を持った存在を入れて、それを呼び水にして魂の転写? 世界を確定? させるんだって。なんか女神様は観測者効果って言ってたけど。
たまたま女神様(ライア@勢いのある作品が好き)が俺の作品を知ってた縁で、ミカちゃんを救った恩人である俺たちを助ける意味もあって、こうして創造された異世界に姉弟で送りこまれたというわけ。
観測期間は俺が小説に描いてた15歳になるまで。そこを越えたら世界が安定するから俺たちを地球に戻してくれることになっている。
「でもさ、あの女神様わたし達に観測しろって言ったのに、体感で20分くらいでここまで来てるんだけど」
「
実際には幼児期丸々じゃなくて、俺が赤子で目覚めて二、三日はその状態で過ごしてて、その次に寝て起きたら今の8歳に成長してた。
「ようは原作で時間が飛ぶって言い切ってるところに合わせて飛ぶって感じ」
「ならいいけどさ。じゃあこれからあんたの小説に合わせて進んでくんだ」
「うん。明日、王都から鑑定人がくるだろ、そこで俺たちの適正魔法を判定するんだ」
琴姉ちゃんであり今生の妹ネリィであり@limlimさんが棒読みで言った。
「いよいよ密かに鍛えたチートな魔法力が発覚しちゃうんですね。グレイくんが活躍するのがすっごい楽しみです」
「ところが赤ん坊の頃から鍛え上げてた俺の魔力が、なぜか無属性に判定されちゃって」
「あれ? あんだけ修行したのにまさかの無属性? 意外な展開です。でもここぞとばかりに罵倒してくる義母や兄たちにすっごいムカつきました」
これ、グレイの魔力が強すぎて些細な属性の違いを吹き飛ばしちゃうっていう理屈なんだ。
「そんで妹のネリィちゃんも続けて鑑定を受けるんだけど――――」
「ここにきて妹ちゃんがレア属性の光に適性しちゃうとは。きっと両親はグレイくんをもっといらない子扱いちゃうんでしょうけど、できれば妹ちゃんはグレイくんとこのまま仲良くして欲しいなあ」
「周囲はグレイをバカにして妹のネリィをちやほやするんですが、ネリィはお兄ちゃんが大好きなのでその度に反撃するんですよ。そのうえこの後のイベントでグレイが王都の学園に入学することになって、その1年後に大好きなお兄ちゃんのいない寂しさのあまり追いかけてきちゃうんですね」
「うわ、きっしょ」
姉ちゃんが愛らしい幼女の顔を歪ませた。
「何がだよ!」
「いや、あんたが実の姉妹をヒロインと見てるのがキモイ」
「言っとくけど妹だからね! 俺だって姉キャラにそんな幻想抱かないよ。琴姉ちゃんのせいで俺の姉属性は消え失せたよ。それに別に仲いいってだけだし。ヒロインはちゃんと他にいっぱいいるんだからさ」
「あん?」
姉ちゃんがようやく可愛らしい顔になったというのに、前世と同じ凶悪な表情になった。
「言っとくけど、私の目の黒い内はハーレムとか許さないからな」
「俺たち今、碧眼なんですけど」
俺は金髪碧眼の美少年。琴姉ちゃんは可憐な銀髪に赤色の瞳。
「鏡見てびっくりしちゃったよ。もうどこのハリウッド俳優だよってくらいのイケメン」
「地球に戻れても元の顔見て絶望して死んだりすんなよ。また異世界これる保証ないんだから」
「しないよ。あー、でも地球に戻ったら魔法が使えなくなるのだけはもったいないな」
その分、今のうちに思いっきり魔法を撃ちまくっとこう。そう思った俺は魔法を放つ仕草をしながら違和感を覚える。
「あれ?」
「どしたん?」
「何か、魔力がほとんど増えてないような……?」
短時間だけの赤ん坊の期間で感じた体内の魔力量。今もその時と比べて全然増えてないような。
言葉もしゃべれない頃からの反復練習により、現時点で世界トップクラスの魔力量になってるはずなのに。
「えいっえいっ」
腹の奥の魔力を身体を巡らせて手のひらから放出しようとするが、まったく動かせない。操作方もよく分かんないし、そもそも掴めるほどの魔力がないような。
えっ……なんで……?
「ねえ、ヒロト。この世界って、魔法に適正ない人間……だいたい世の中の9割の人間は魔力を持ってない設定だよね。魔道具が起動できる火種程度の魔力は誰にでもあるけど」
「そう。その違いは生まれつきに加えて、小さい頃に筋肉鍛えるみたいに魔力を使い果たす経験をどんだけ積んだかって違い」
「あんた、幼児期スキップしたからそういう反復練習もしてない扱いになってるんじゃない? ほら、あの女神様言ってたじゃん。夢のフルオープンワールドだフリーシナリオだって。自分が主役だって」
言われて思い出すのは、前に遊んだRPG。少年期と青年期とで別れてたけど、少年期の最後のイベントを終わらせて、画面暗転後に青年期編がスタートしたんだけど、ステータスや所有アイテムが子供の頃のままだったのだ。
顔グラフィックは変化してるのに、それ以外は昔のままだから子供用の防具をどうやって装備してんだよってツッコんだ覚えがある。
でもRPGで楽しいのはレベル上げとかステータス配分なんだから、リアリティ的におかしくてもプレイヤーとしてはアリだなって思った。
そう、ゲームの話であれば…………
「嘘だろ女神様……ここまで10年間の努力が全部なかったことになってんのかよ」
「ねえ、待って。全然努力なんてしてないじゃん」
「そんな……それじゃあ俺のチーレム生活は?」
「許さねえっつてんだろ。ていうかその前にあんたどうすんの?」
「どうって、何が?」
「三ヶ月後の夏祭り。そこでこの村の祠に封じた魔族が復活して、子どもたちが殺されそうになっちゃうじゃん。あんたがそこでチートで眷属を倒して、それきっかけに王都の学園に入学できるようになるやつ。このままだと対抗できないじゃん」
「あっ!」
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