第11話 11層ボス撃破! 気になる報酬は……


 ぱあっと俺たちの元へと頭上から光が降り注いだ。

 姉ちゃんと二人、完全に光に包み込まれると目の前には女神様の姿が。


「あれ、女神さま!?」


「お二人とも、お久しぶりです」

 体感で半年ぶりに会った女神様が以前と変わらない軽い調子で言った。


「任務達成おめでとうございます。あなたたちの活躍でこの世界はちゃんと"根付く"ことができました」


 女神さまに託されていた任務。それは俺たちがこの世界で過ごし、住人と関わることでで観測者効果とかで世界を確定?させること。このタイミングでそれに成功したんだって。


「あれ、でも最初に原作通りの15歳まで過ごせって話じゃなかったですか?」


「あまり無茶をして命を落としたら申し訳ないので言いませんでしたが、それは村でスローライフルートを送った場合の話なんですよ。こうして原作を超える活躍を成し遂げて多くの人々に影響を与えたのですから、当然ながら達成も早くなるのです」


「おおっ!」

「やった!」


 思わぬタイムレコード達成に俺たちは声をあげた。


 そりゃ愛着のある世界だけど、気分的には地球から留学にきてる感じだからね。もう身体が日本のご飯を求めてうずいてしまってるのだ。カレーとラーメンが食べたい。スナック菓子が欲しい。


「ううっ……コンディショナーが、シャワートイレのある生活が戻って来るよぉ……」

 琴姉ちゃんも同じ思いを抱いてたみたい。


「ではお二人ともここで地球に帰還ということでよろしいですね?」

 女神さまが補足するには、このタイミングを逃すと当初に設定していた15歳時点の帰還になるそうな。

 突然の話で慌ただしいが、俺たちは顔を見合わせて頷く。


「はい、お願いします。でも皆に挨拶くらいはしたいんですが」


 女神さまに了解され、そこから顔が出せると言われて光の中を数歩。なんかカーテンみたいになってるところをめくると顔が出せた。


「どうもー」

 目の前には慌てた様子の皆の姿。 


「グレイくん!? いったいこの光はなんですか?」

 驚いている皆を代表するようにラライラ先生が言った。


「えっと、どう言ったらいいかな。突然ですが俺たちはガルグランを倒したご褒美として女神さまに導かれて別の世界に旅立つことになりました」


「ええっ!?」「なんと!」

 皆が驚愕の声を上げる。


「なんていうか、俺たちがこの世界に生まれる前の世界……的な?」

「天界ということかのう」


 まあおいしい料理や漫画やアニメが充実した素晴らしい世界なのは間違いないですね。


 突然の宣言に反応が追いつかない皆の中で、ラライラ先生だけが分かってましたよという風な表情を見せていた。


「なんとなくそんな気がしていました。普段からグレイくんとネリィさんはどこか別のものを見ているんだろうなって」


「ラライラ先生……」

 普段はとぼけた感じだけど、決めるとこは決めてきたポンコツ系メガネ先生。姉ちゃんが感慨深い表情で名を呟いた。


「それでですね、俺たちがいなくなった後のリバーシの権利金の管理はラライラ先「おまかせください!」


 ラライラ先生がめっちゃ食いついてきた。


「ええっと、具体的には残りの使用料はアデット基金って名前にして――――」


 俺は姉ちゃんと相談して権利金の使い道を割り振った。


・王都の西にある孤児院に寄付(クリスタル化したディアボロスビートルもここのガキたちに寄贈)

・ラライラ先生の研究の援助

・学園に寄付して平民向けの奨学金枠を拡大してもらう

・下町にある食堂の借金肩代わり(シェフに経営センスとインテリアのデザインセンスはないので調理に専念してもらうこと)

・年一のオークションで破邪の秘石の落札(メインヒロイン兄妹に寄贈)


 以上を利用料の1~2割ずつ。


 そして残りはアシュフォード男爵へ

 それだけあれば村の運営も楽になるし、ジャットとスニも小等部から学園に入れるようになるだろ。基金名を俺たちの生みの母の名であるアデットにしたのはただの義母への嫌がらせだったり。


 なんか指を折りながら自分に入ってくるお金を計算したラライラ先生はもう、にっこにこ。


「ワタシは信じていましたよ。グレイくんは世界を救うだろうって」


「ラライラ先生……」


 そして俺たちは女神さまの演出で天に召される的な構図で半年間を過ごしたこの世界を後にした。


「グレイくん、ネリィさん、いってらっしゃーい!」

「王家の一員として感謝致ししますぞ、新たなる勇者さま」

「なんかよく分かんねえけどガンバレよ!」



 身体が高く浮き上がっていって皆の声援が遠くなると、ぱっと切り替わって白い空間へ。


「ちょっと待ってくださいね。完了報告書だけ書いちゃいますので」


 女神さまがノートパソコンで魂活サイトに書き込むのを待ちながら、姉ちゃんと戻って来る懐かしの日常を語る。


「姉ちゃん戻ったらこのままコンビニ行こ。今日はポテチとコーラのコンボも許されるでしょ」

「てかあんた、戻ったらすぐ中間テストが来るけど大丈夫? 学園じゃ中学校の数学でイキってたけど二次関数とか倒せんの?」


「おおう」


 やばいな。体感で半年ほど空けてるから正直授業内容を忘れちゃってるよ。


 せっかくラスボスを倒したというのに、どうやら試練は終わらないらしい。


「俺たちの戦いはこれからだぜ」

「それ終わっちゃうやつじゃん」



        ****



「こっちだ姉ちゃん!」

 部屋に充満しようとする煙から逃れ、俺は入ってきたのと反対側のドアを蹴り飛ばす。開かれた先の廊下にもすでに煙が侵入してきてる。


 ここはミカちゃんの家。

 俺と琴姉ちゃんが高校から帰ってきたタイミングでミカちゃんの家が火事になったのだ。火元は隣家でそこからの延焼。買い物袋をさげたおばさんが中にミカちゃんがいるはずだって呆然としてるから、俺たちが救出に飛び込んだんだ。

 でも中に入ってみればテーブルにお兄ちゃんの家に行ってきますっていうメッセージが残ってたんだよね。

 つまり勇み足ってやつだったんだ。


 だから今は慌てて自分たちが脱出するところ――――


「あれ、ここは?」


 ドアを抜ければそこは白一色の空間。


「おひさしぶりです、二人とも」

「女神さま!」


 お馴染みの空間には椅子に座った女神さま。今回は最初から砕けた感じ。


「えっ、もしかしてまた?」

「はい、お二人は火事で命を落とすところでしたが、女神ポイントの獲得によってまたコンティニューのチャンスをご提供しちゃいます」

 慣れた様子でノートパソコンを開く女神さま。


「あれ、でも今回はミカちゃんは元から家にはいなかったから助けたわけじゃないんですけど」


「いいえ、今回はそちらを助けてくれたことの感謝ですよ」


 女神さまに手を向けられて気づく。俺の腕の中には全自動掃除機があることを。そして姉ちゃんの腕には黒猫が抱かれてる。

 ミカちゃんちのリビングに入ったら炎に巻かれようとしてたから、慌てて救出したのだ。いや、全自動掃除機は救う必要なんてないんだけど。我ながら動転してたんだな。


「なんと、その猫と掃除機が将来、世界を破滅から救う予定だったのです」

「これが!? いや、猫はまだワンチャンあるかもしんないですけど……持ってきといてなんですけど、こんな掃除機はどこにでもあるでしょ」


「いえ、その猫と掃除機がです」

「うっそ……」


 女神さまの真剣な表情からすると、どうも本気らしい。何がどうしたらこんな猫と掃除機が世界を救うのか分かんないけど。


「まあ理由はともかく助けてもらえるならありがたいでしょ」

 と姉ちゃんがさくっと切り替える。


「でも女神さま、俺はいま中間テストが赤点のせいで補習ばっかなんで小説は進んでないんですよ。あっ、別に俺が作った世界に絶対いかなきゃいけないとかはないですよね。じゃあ俺、いまカクヨムランキング一位の悪役転生で原作チートで成り上がる世界に行きたいです!」


 俺がそうアピールしたけど、女神様はふふっと笑って言った。

「残念ながら今回は女性向けのジャンルの一位の方に行っていただきますよ。あなたがたが向かう世界は『そっちの王子様ならご自由にお取りください ~悪役令嬢に転生した私はサブキャラの弟をハイスペ王子に育てることにしました~』です」


 悪役令嬢ものかあ。俺、全然詳しくないんだよね。姉ちゃんなら分かるかなと思って振り返ると。


「あえっ!? あっ、あの作品に――――」


 姉ちゃんが固まってた。

「どしたん琴姉ちゃん」


 反応なし。もしかして大ファンの作品だったとかかな。


「女神さま、それってどんな話なんですか?」


「ええ、悪役令嬢に転生した女性が破滅ルート回避のために初手でヒロインや王子とは距離を置くのですが、それはそれとしてサブキャラの弟の可愛らしさにやられて何でこの子が攻略ルートのないサブキャラなんだよ、よしだったら自分が英才教育を施してメインキャラを超えるハイスペ王子に育てるぞ、ってしてたら実は血がつながっていない裏設定を知った成長した弟に溺愛される最高ににゅふふな私のいま最推しな作品です。作者さまはこれが処女作ということですが秒で作者フォローしましたね」


「へー」

 いまは女性向けはそういうのが受けるんだー。

 

「あああああああ! 余計な知識入れてんじゃねええ!」


 姉ちゃんが突然俺に絞め技をかけてきた。


「えっ!? なに!? なんだよもー」


 いろいろ感触があれなんで今は甘んじて受け入れるけど、ほんと姉ってのは理不尽だよね。


「おやおや、まあ今回は邪鬼や魔王なんていない平和な世界の恋愛ものですからね。あえて原作知識なしで進めて自分だけのヒロインを攻略するのもオススメですよ、にゅふふ。それじゃあお二人は主役の姉と義弟のキャラでいきましょうね」


「あっ、はい。じゃあそれで行ってきますね」


「ああやっぱり……死ぬ……己の業を……直視は死ねる」


 なんか姉ちゃんが変なこと言い出してる。直視されたら死ぬとか邪眼キャラとかいるんかね?

 まあそんな姉ちゃんだけど、俺たち二人がいれば次の世界も何とかなるでしょ。


 さあ、それでは俺たちの来世にご期待ください!



――――――『完』



 お読みいただきありがとうございました。


 本作と同じく、しっかり者の姉とちょっとおばかな弟というコンビが活躍する作品


『デスです! — フルダイブ型VR・RPGでデスゲームに巻き込まれたので実況配信しちゃいます! なおR18タイトルなのですでに社会的に死亡Death —』

  https://kakuyomu.jp/works/16817330659205137131

 が連載中です。

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自作無双チーレム小説の主人公に転生 with姉ちゃん #幼児期スキップしたらステータスが最初のまま!? #現実はゲームじゃないんですよ女神様! 笠本 @kasamoto

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