青春時代の青春の歌
11月も過ぎた頃、また大学に通い始めた。久しぶりに講義にも出た。この日の講義は、民俗学で、ことわざについての研究内容だった。先生の言った内容をひたすら、書き留めていく。なんだろうな、先生の講義にどっぷりとつかることが出来た。先輩に教えてもらったもんな……。日々、一生懸命輝いて生きるって事を……。講義が終わって、ノートを片付けていると、友達が声を掛けてきた。
「お前、久しぶりだなあ……。どっか行って来たのか? 顔が真っ黒だぞ」
「まあね!」
次の講義まで、3時間あるから、サークルの教室に行く。みんな驚いていた。そりゃ、そうだ。講義数か月出てなくて、おまけに顔が真っ黒だからな。みんなにせがまれて、農場の話をする。みんな色んな質問をしてくる。1つ1つ分かることを話していく。みんな、「うっそ~」とか、「食べてみた~い」とか言ってくる。その時、大ガマ先生の声がした。
「一体、どうしたんだ? ごったがえしてんな」
気が付くと、教室ほぼ満員だった。大ガマ先生は、俺を見る。
「焼けたな! 武者修行してたのか!」
色んなことがありすぎて説明できなかったので、「ははっ」と笑ってごまかした。
「小説は、もう諦めたのかと思ってたんだがな」
「足りないものをずっと考えていました……」
大ガマ先生は皮肉っぽく言う。
「何だ、言ってみろ!」
「等身大で生きる事。そして、等身大で描く事です。世界を……」
大ガマ先生は、俺の顔を凝視している。
「精一杯の等身大で書きました」
カバンから、小説を渡す。大ガマ先生は、パラパラめくると、
「長いから読みたくないな……」
とつぶやいた。
「お願いします」と頭を下げた。
大ガマ先生は、「本気か」と言って、俺を見る。真っすぐ先生の目を見返す。
大ガマ先生は、黙って片隅に行くと、小説を読み始めた。さっきは、強がりを言ったが、やっぱり小心者なので、結果が気になる。ちらちらと大ガマ先生の方を見る。時が経つのが遅い。1時間とちょっと過ぎた頃、大ガマ先生は立ち上がるとそばにやってきた。
「お前、農業してたのか?」
うなずくと、
「青い!」
大ガマ先生は、間髪入れずにそう言い切った。
がくっと来る。
大ガマ先生は、しばらく澄み切った冬空を眺めていたが、小説をカバンに入れると、「次、講義だから」と出ていった。
あれ、認めてもらえたのかな? 認めてもらえなかったのかな? 不安になってしまう。その時、ふと授業の事を思い出す。もう講義が終わりかけていた。ただでさえ、出席率悪いのに、カバンを手に取ると急いで教室に向かった。頭の中に2文字が浮かび上がる。留年……。どたばた走った。肌寒かった。もう冬だな。急ぎながらそんな吞気な事を考えていた……。
3年後
家のポストに先輩とリンの結婚式の招待状が来ていた。心がもやもやしたが、まあ「先輩ならしゃーねえな」とも思った。部屋に戻って、ゆっくり招待状を見る。やっぱり心がもやもやする。招待状の他に、農場の様子を書かれた手紙が同封されていた。写真も。先輩は、相変わらず農場で作物を作っているらしい。今は、ちぢみホウレンソウというものや、大根など作っているとの事だった。先輩によると、冬の野菜は、とにかく旨いのだそうだ。先輩は左腕を負傷してから、3年間ずっと土壌の研究をしていたらしい。その甲斐あって、今農場ではある研究所と共同研究で新しい肥料を開発しているらしい。まだまだ先は長そうだと書いてあった。そうそう先輩の怪我の事だが、「一つ一つ地道にやっていくさ」と書かれていた。ヒマワリの種も入っていた。手紙には、「表面の皮をむいて、中の身を煎って食え」と書いてあった。大事にヒマワリの種を集めて机の上に置く。3年前の出来事が昨日のように思える。最後に詩が載っていた。
『青春謳歌・続』
寒い冬 風が 畑にふきすさぶ
生き物達が 冬眠をする
どこかの隙間で ヤモリが目を閉じて
どこかの小枝に カマキリの卵がついている。
生き物達にとっては 厳しい季節
でも 寒い冬に 動物達は 春の為に力を蓄える
でも 寒い冬に 桜は蕾をつけて 春に備える
冬は 百花繚乱の春の準備の季節
俺もいつか咲き乱れる春に向けて 詩をつむぎ続ける
一瞬しかない青春を
いつか、見事立派な花が咲くことを信じて
いつか、大地を謳歌する事を信じて
了
土ぼこりと青春と 澄ノ字 蒼 @kotatumikan9853
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