手鏡に跨る(四)

 自分の菊毛を自分で綺麗に剃るのは難しい。人体の構造上だけみれば指先が肛門に届くようになっている。しかし剃刀の刃先を正確に菊門の周りに生い茂るものにを創造主は想定しなかったはずだ。鏡がなければ剃ることは能わず。たとえ手鏡を用いたとしてもおのれの体躯の陰翳によって生じる薄暗がりのなか手探りならぬ刃探りで除草を断行しなければならぬ。

 迭夜はシェービングフォームによる功罪にも悩まされた。肌を保護するためには欠かせないものの叢の正確な分布を把握することが難しくなる。まずは白泡の表面をなぞるように剃ってみた。四十男の聞き苦しき息遣いをぬってかすかに刃先によって刈り取られる音。

 一度目の「なぞり」を終えたあと、迭夜は手鏡を見下ろしながら利き手ではないほうの指先で菊門まわりに触れる。ずいぶん刈り取ったが生え際から毛の先までがまだ残っていた。

 剃刀で刈り取った毛先の断面はチクチクする。これは顕微鏡で確かめるまでもなく剃毛によって鋭角が生じるからだ。槍の穂先のごとき不穏がおのれの急所近くに突如発生した。一刻もはやく鋭利と化した一帯を均すべく、迭夜は第二波のシェービングフォームを塗りたくった。あとは同じことの繰り返しである。あくまでも刃先によって菊門そのものを傷つけぬよう除草作業を続けた。

 ふたたび手鏡による目視。パイパンならぬパイ門がヒクヒクと蠢いていた。陰毛とは男女かかわらずのものだが、露わになった菊門にはなぜか女性性を感じ取ってしまう。おのれの秘所でありながらよその女のそれを目近に覗いているような錯覚にとらわれたせいなのか──迭夜は勃起した。

 根が欲情しやすくできてるものだから、ロハのズリネタを得た四十男はシェービングフォームも洗い流しもせずに、おのれの菊門きっかけの淫猥なる連想にふけりながらの自涜をおこなわざるを得なかった。

 シャワーを浴びる。排水口には千々に散った陰毛と放ったばかりの廃白液が渦を巻いて流れていった。

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汚叢の禁忌 〜我レ、菊門ノ草ヲ除スル〜 焚書刊行会 @imagawatatsuya

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