最終話 わたしと貞淑な妻とフォルトレス
「おいフラー、着いたぞ」
まどろみの中、声が聞こえた。
「あ、ああ」
わたしを起こしたのは、隣で車を運転していた男、
「は? お前、もしかして寝てたの?」
「あ、いや、その、なんだ」
「うわあ、呆れるわあ。この前オレの勤務態度が不真面目だーとかって怒ってたくせに。マジかよ。マジかよマジかよぉ」
「うるさいな」
この男は清楚な美少年と言うか美少女みたいな顔をしているくせに、性格は反比例してネチネチしている。
遙世はエンジンを切って、わたしにティッシュをよこした。
「なんだ?」
「なんか変な夢でも見たんだろ?」
頬を触れると雫が流れていた。
なんだか恥ずかしくなり、顔を背けティッシュで顔を拭った。
「男勝りなフラーちゃんも乙女なところがあるんだねえ」
うぜえ。
「そういうお前は少女のくせに男っぽいところあるんだな」
「なんだと!?」
「売り言葉に買い言葉だ。ジェンダーの問題に踏み込んだのはお前が先だからな」
「くっ! 勤務中に寝てたくせに!」
と言って
「一服するわ」
そう言って遙世は
なんだかんだ言って気の利く奴だ。
こいつとコンビを組み始めてから、こいつの方が大人だなと気付かされた。
頭の良さとか、礼儀作法とか、そういうことじゃあ推し量れない、彼の中心に存在する清らかさ。彼はわたしに対してとても誠実なのだ。
そう言ったところが、なんだかマノさんに似ていて好感が持てた。
わたしは遙世が煙草を吸い終わるのを待って車の外に出た。
地下駐車場。
ショッピングモールの入り口から一番遠いここには、人の気配はない。
「さて、今日も頼むぜ、
「人の目があるかも知れないのだから、軽々にフラグメントで呼ぶな」
「えー、いーじゃん別に。仕事してる感じして」
「仕事してるんだよ」
「あー、そっか」
後ろのトランクから1メートル弱の釣り竿入れを取り出す。
「見た目、釣りに行くみてーだな」
トランクから取り出した絶縁体ローブを羽織っているわたしは、多分レインコートでも着ているようにでも見えるのだろう。
竿入れに入っているのはもちろん釣り竿なんかではない。
敵を倒すためのポールウェポン。雷神トール。
わたしはこれで敵を倒すのだ。
「さて、フォルトレス様がお待ちかねだぜ」
「そうだな。行くぞ、
わたしの言葉に一瞬驚いたような顔を見せる。
「いいねー。仕事してる感あるぜ」
「だから仕事してるんだっての」
「あー、そっかそっか」
キャラキャラと笑う。
フォルトレスと言う言葉を探していたら行き着いたこの仕事。
いつか感じたあの温もりに辿り着くために戦う。
戦いの果てに真実が待っていると信じて。
真実であるわたし自身を携えて。
今日もわたしは戦う。
待ち構えている敵が、彼では有りませんようにと祈りながら。
オデュッセウスと真眼 詩一 @serch
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