第6話 星宮桜乃⑤

 怒涛の練習から遂に文化祭前日まで来ていた。

 

 この日の放課後、部室の中はいつも以上に緊張感が漂っている。

 練習を終え、明日に備えミーティングを行う。

 

 「ここまで来たんだから絶対成功させましょう。最後に部長から何か一言。」

 「え、えと皆さん明日は絶対成功させましょう!!」

 「それ私が今言ったよー。」


 部屋中に部員の笑い声が響く。

 

 桜乃は部長の話を聞きながら、こんな雰囲気も悪くないなと感じていた。

 それと同時に自身に迫ってるタイムリミットについても危惧しながら、

 明日へ向けて集中していた。


 「それじゃあ、今日はこの辺で切り上げて明日に備えてゆっくり休むこと!」


 ハーイという部員たちの声と共に解散の合図が出され、

 皆それぞれ帰り支度をし始める。


 「星宮さん、少し話できる?」


急な先生からの呼び出しに驚いたが、すぐにそれに応じた。


 皆が部室から居なくなって先生と二人きり。

 先程までとは違った緊張感が二人を包む。


 「いよいよ明日だけど、体調の方は大丈夫?」

 「大丈夫です!もうばっちりです!!」

 「嘘…だよね?」

 「え? 嫌だなぁ全く問題ありま――」

 「余命宣告。」

 

 その言葉を聞いた瞬間桜乃は一瞬固まった。

 どうしてそれをこの人が知っているのか。

 誰にも知られることはないと思っていたのに。


 「・・・先生、どこでその言葉を。」

 「ごめんなさい。実は結構前から知っていたの。あなたが倒れたあの日に。」

 「母から聞いたんですか。」

 「うん。でも勘違いはしないで! 私が無理に聞いたの! あなたのことが心配で」

 「別にいいですよ? 責めるつもりなんか全く無いので。」

 「本当にごめんなさい。」

 「あーあ、せっかくばれずに貫き通せると思っていたのにな。一つ質問何ですけ   ど、何故それを知ってて私が続行することを許可したんです? 」

 「私だって本当は許可したくなかった。けど仕方ないじゃない星宮さん、

  練習している凄く楽しそうなんだもの。いいえ、違うわね。本当は私もあなた   の演じてる姿が見たかったのかもしれない。」


  話続けている先生の瞳からは、いつの間にかいくつもの涙が零れ落ちていた。

 

 「ちょっと先生!? 泣かないで!? 」

 「だって、仕方ないじゃない。今、私があなたにしようとしていることは

  人として最低なこと。死ぬかもしれない人間に演じ—―」

 「先生! 」


 楓の言葉を桜乃は無理矢理遮った。

 これ以上彼女が言葉を続ければ、自責の念で向こうが

 潰れてしまいそうだったから。

 

だから、先生が自分を責めないように私は言ってやった。


「もし責任を感じているなら最後まで私と言う人間を見てください。

 きっと今までで最高の演技をしてみせます。」


桜乃は一言、言い終わると小さくお辞儀をして部室から出て行った。



一人教室に取り残された楓は小さく呟いた。


「あなたの演技が伝わるといいわね。」


 その言葉は誰にも聞かれることなく部室の中へと消えていった。




―――――――—―――――――――—―


ピンポーン。


家のインターホンが鳴る。

居留守を使おうと思ったが、先ほどからしつこく鳴らされてる。


ピンポーンピンポーンピピピピピンポーン!!!


「うるさいっ! 今出ますよ! 」


扉を開けるとそこには見慣れた女の子の姿があった。


「桜乃じゃんか。なしたんだ。 」

「やっとでたか、 出るのが遅い! 」

「こんな時間に来る奴なんてほとんどいないんだよ。 てか部活帰りか? 」

「そうだけど、少し話せないかなって。 」


 珍しく真面目な顔つきで話しかけてきた桜乃に、

 こっちも思わず真剣になる。

 とりあえず、立ち話させるのも申し訳なかったので

 一度、桜乃を家の中へといれた。


 「何かお邪魔するの久々。」

 「そうだな。中学生以来か。で話ってなんだ?」


  リビングの床に対面で座りながら話を聞く。


 「もしさ、私が後少ししか生きられないって言ったらどうする?」

 「どうするって、どういうことだよ。」

 「フフッ。真面目な顔しないでよねー。今の劇中のセリフなんだけど。」

 「なんだよそれ。緊張してんの? 」

 「バーカ。そんなわけないじゃん。明日本番だし最後に、

  からかってみたくなっただけ。」

 「桜乃、お前なぁ」

 「まぁ見ててよね。明日は一番いい演技で空を泣かせるんだから」

 「それは無理だろ。」

 「やってみなきゃ分からんでしょ! てなわけでスッキリしたから帰るわ。」

 「ホントにそれだけだったのかよ。」

 「そうだよ? え? もしかして何か期待しちゃった?」

 「前にも似たようなこと聞かれた気がする。」


 そんなくだらない話をしながら空は桜乃を玄関まで見送る。


 「別に家隣なんだから玄関まで来なくていいのに。」

 「鍵閉めなきゃいけないだろ」

「なーるほど。んじゃまた明日。」

 「おうっ。」



 別れた後で空はふと思った。


—―私が後少ししか生きられないって言ったらどうする?


 あれ、確か事故で危なくなるのって男の方じゃなかったか?


 変な胸騒ぎがしたが、それをかき消すためにも早く寝ることにした。


 



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