第5話 星宮桜乃④
「んんっ・・・ あれ、ここは。」
日の光が彼女の顔に優しく当たる。
目が覚めると見覚えのない天井があったが、
そんなことは、どうでも良かった。
それより私は一体。
「桜乃!? 」
私の考えを吹き飛ばすような驚いた声を上げながら
見知った顔が私の顔を見て安堵の溜め息をついてるのが分かった。
「空、うるさい。」
「なっ!?」
「それよりここは病院?」
「病院だ。お前3日前に練習で倒れてそのまま、ここに運ばれたんだよ。」
「三日・・・三日!? 待って今日何曜日!? 」
「今日は日曜日だ。」
「今すぐ練習に行かなきゃ—― 」
「いきなり何を言って! 駄目に決まってんだろ!?
また倒れるかもしんなのに! 」
強引に行こうとする私の手を空は力強く握っていた。
「放して! 」
「行くなら、医者の許可が出てからだ! 」
「そんなの関係ない! 」
「あるだろ! 自分の身体を大切にしろよ! 」
「私には時間が無いの!! それなのに・・・私のことを分かってる
風に言うなっ!!」
二人の声が響いたのか、すぐに担当の医師が駆けつけてきて
桜乃の診断を始めた。
空は、その間廊下で待機。
程なくして診察を終えた医師が病室から出てきた。
すぐに空は病室へ入ったが、桜乃は帰り支度を始めていた。
「だからもう大丈夫って言ったでしょ? 」
「桜乃、本当に大丈夫なんだよね? 」
「しつこい男は嫌われるよ? 」
またいつもの意地悪な笑顔で桜乃は彼を見た。
先程の怒声が嘘だと思えるほどで、
その様子に空はホッとしたが、
彼女の涙には気づかなかった。
その日の夜、家へと帰宅していた彼女は
激しい気持ち悪さに襲われトイレへ駆け込んだ。
「うっ。オェエエ」
母親に身体をさすられながら、
気分が落ち着くまでそこにいたが、
暫くして収まったのか、彼女は自室へと戻る。
彼女は布団の中で考えるた。
大丈夫。当日までは絶対に諦めない。
だからそれまでは、何が何でも演じ続けなきゃいけないんだ。
しかし彼女の信念とは裏腹に、
徐々に桜乃の体を
―――—―――—―――—―
次の日の朝、星宮桜乃は珍しく誰もまだ来ていない時間に教室へと来ていた。
正確には生徒がいない時間だが。
「おはようございます先生!」
「星宮さん!?」
教室へ入るなり、見慣れた姿の先生に声をかける。
彼女はさぞ驚いただろう数日前に倒れた生徒が、
朝一で部室へと入ってきたのだから。
「体はもういいの!? 」
「はい! もうばっちりです! 」
「良かったぁあ!! 本当に心配したんだから! 」
楓は桜乃が登校してきて安堵の表情を見せる。
あの件で責任を感じ彼女自身、自分を責めていたからだ。
部員たちは各自自主練習、主役のいないまま通していた。
「あの先生! 」
「何? 星宮さん」
「今日からまた練習参加するので! 」
「そのことなんだけど、配役を変わったほうが良いかなって先生思うの。」
「え? どうしてですか!? 今更変わるなんて!」
「この前みたいなことになったら皆心配するし、それに万が一あなたにもしもの
事があれば・・・」
「関係ありません!!」
自分でも驚くくらい大きな声が出たことだろう。
桜乃は連中を控えたほうが良いと言った空と
楓が重なって見えたのだ。
「すみません先生。でもこの役だけはやり切りたいんです! お願いします! 」
星宮さんてこんなに自己主張する子だったかしら。
いや、今だけじゃない。
練習の二日目あたりから物凄いやる気を感じていた。
それは主役に抜擢された責任感からだと思っていたけれど。
「一つ質問してもいいかな?」
「何でしょう。」
「あなたが、そこまでやるのは何のため?いくら主役をやりたいと言っても簡単にやらせるわけにはいかないのよ、こちらも一教師として。だから何故そこまでこの役にこだわるのかが私は知りたい。それが分からないうちはやらせるわけには。」
桜乃は少し間を取って話し始めた。
「すみません。詳しくは言えないんです。けど私のこの役を、私はここにいるんだと見せたい人がいるんです。そのためならこの命がどうなろうとも構いません。それくらい命がけで私は、この役に臨んでるつもりです。それに私を選んだのは楓先生じゃないですか。責任取ってくださいね?」
「フフッ。それは結婚する相手に言うべきよ。まっ止められないのは
知っていたしね。」
楓は少し困ったような寂しげな笑顔を見せた
「それってどういう・・・」
すると待ちくたびれたかと言わんばかりにドアがスライドされた。
ガラガラガラという音と共に部員たちが入ってきた。
「私一人がどうこう言っても、皆があなたに主役をやってもらいたいってこと。」
「先生・・・皆・・・」
「けど約束して、無茶はしないって。」
「はい!! 」
「よーし、じゃあまた今日から頑張ろうか!」
『ハイッ!!! 』
部員たちの元気な声が響く。
桜乃が戻ってきてくれて皆のやる気が戻ったのだろう。
その様子を見て思わず本人も嬉しくなった。
―—――—――――――――――
その日の放課後、練習を早めに切り上げて彼女は
ある男子生徒の家へと向かっていた。
あの病院の件依頼、どこか気まずくて話が出来なかったから。
だけど話すなら今日しかチャンスはない。
そう思って彼の家の前へと来た。
ピンポーン
家のチャイムを鳴らすが出てくる気配はない。
・・・居ないのかな—―
「人の家の前で何をやってるんだ?」
「ウヒャアァァアアア!」
「おい、何て声出すんだ。普通に声かけただけなのに。」
「急に後ろから声を駆けられたら誰だってビックリするよ!! 」
「お、おう。で何の用なんだ? 」
「何か、普段通りだね。てっきり気まずくて話さないのかと思ってたら。」
「別に気まずい何て思ってなかったけど? 」
「くそ!空のくせに生意気! 」
「ホント、何しに来たの!?」
ハッと急に我に返るなり真面目な顔つきで
目の前にいる男に向かって言い放つ。
「当日、私の完璧な演技に泣かないように!」
「・・・それだけ?」
「告白されると思った~?」
「思うか!」
「アハハハハ!じゃあまたね!」
彼女は笑いながら自宅へと入って行った。
しかしこの時、空は妙な違和感を覚えていた。
—―桜乃ってあんなに完璧主義者だったか??
―――――—――――—―
桜乃は部屋で手紙を書いていた。
大好きな男の子へと送るはずの手紙を。
書き終わると手紙を見ながら
今日のことを振り返り彼女は小さく微笑んだ。
私、先生に嘘ついちゃったな。
無茶しないようにか・・・
ごめんね先生それは無理な話だよ。
書いた手紙を机の引き出しの中に保管すると、
そのまま布団へ向かい深い眠りについた。
彼女の書いた手紙が湿っていたことなど
この時は誰も知る
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