すぐ訪れる「バイバイ」と、いつかくる「またね」の話

きっと、ありきたりな「バイバイ」と「またね」を描いた作品。

 作者様によると、プロット一発書きとのこと。よくよく読むと前半と後半の文体がほんの少し変わっている。逆にそれが、主人公の心の流れを表しているようで『物語の世界に読者が溶けていける』要素になっていてとても良い。

 作品世界に入っていくためには、しばしば冗長な地の文や過剰な台詞が用いられるが、本作の一番良いところはそう言った「余分な味がしない」ところにあると思う。文字を追うごとに、解釈に困るのではなく。極々自然に物語の登場人物に自分がなっていると錯覚してしまう。

 映画を見るのではなく、演劇に魅せられるのに少し似ている。
 理想的な掌編サイズで、物思いに耽っているときに、ふと読みたくなるのが本作だ。

 読む前は「魚図鑑?」と首を傾げてしまうかも知れないが、読み終わった後は少し切なく、少し切なく甘い「魚図鑑」と言った風に、タイトルを何度も読み返したくなってしまうかも知れない。

 とりとめもなく書いたのだとしたら、推敲を重ねることで更に良い新作が出てくるだろう。そう言った点に今後期待したいと思う。