『夢にカラーが付いている人はさほど多くない――夢の記憶に色付けしているだけだ』
この小さな物語は、モノクロフィルムで焼き付けた写真をピン留めしたあとに書かれる一筆書きを巧妙に並べたかのような感がある。
それは、ともすれば。物語のそれぞれの部分が、バラバラになっているかの様に思える。しかしそれは直ぐに間違いだと気付く。この作品は現在進行形なのではない。主人公である「僕」のつい先ほど体験した、ほんの僅かな過去を遡りながらルーズリーフに必死に書き留めている。そんな小説だ。
だから直情的で、しかし文芸的なのだと言えるだろう。
ただ、作者さんが慣れていないのか。唐突に差し込まれる「おそらくは校正・推敲をもらした部分」と箇所があって、引っ掛かりを覚えることがあるかも知れない。しかし、そんな箇所に作者本来の鋭い感性が垣間見える。
最初に書きあがった原稿は、同じストーリーの流れでも、かなり違ったものだったのかも知れない。正直なところ、そちらにも興味が出てきてしまう。
一度だけ流し読みするのではなく、二度三度繰り返し読むことで。この作品の良さが分かって来る筈だ。何度も読み返してみることをお勧めする。