読者に対する挑戦状のような作品だと感じました。読了したとき、最後に『読者が笑った』ら、読者の勝ち。
本作品は、とても良い意味で『どのようにも解釈できる作品』だと思っています。
章タイトルや概要を読んだとき、ストレートに書かれたまま解釈してもいいものか、それとも、作者の意図が隠されているかもしれないと深読みすべきなのか。
私は、考えすぎて、作者様に負けるかもしれません。しかし、深読みしすぎのまま読み進めても、本作品はとても面白いです。
しばらく読み進めましたが、また最初から読み直しています。一つでも見落としがあったら、もう、真相には辿り着けない。そんな気がしたからです。
頭がボーっとしているときよりも、スッキリしているときに読んだほうが良さそう。
気になる。一ページごとに、読者を謎の渦に呑み込むような仕掛けがされているような気がする。
いや、実際には、とてもストレートな物語かもしれない。
謎解きが好き方、深読みしすぎて自滅してしまいがちな方に、是非とも読んでもらいたい作品です。
まだ途中までしか読んでいませんが、読了したときには、どのような結末を迎えたとしても、「楽しませてくれてありがとう」と作者様に思うはず。
一ページごとに気になる。続きが気になる。結末が気になる。
ここまで読者に「気になる」と思わせた時点で、作者の勝ちかもしれません。
難しいなぁ。夜半まで読んでおりました。
僕は頭が足らず解けませんでしたが、なかなか終わってみるとすっきりと分かりやすいお話でございます。トリックにしっかりフォーカスを当ててスマートにまとめていらっしゃるので、謎解きに専念しやすいかな。推理小説好きな人やこの手のエンタメ好きな人にもっと読んでいただきたいですね。おすすめでございます。
内容は、いわゆる交換殺人にまきこまれた主人公のお話。
会社で上司から目を付けられてる主人公。入り浸ってるネットカフェで、裏サイトにグチを書き込んでいたら「だったらそいつを殺さない?」と交換殺人のお誘いを受けてしまう。最初は乗り気じゃなかったんだけれど、憎い相手にいびられて、交換殺人を持ちかけてきた相手もプレッシャーをかけてきて、さらに会社での環境も悪くなり、とどんどん追い詰められていきます。
そんなこんなでうだうだと悩みつつ、交換殺人の相手を観察していたところ、謎の人物がその男を殺してしまって……。
これはラッキー?
それとも被害者の自業自得?
自分以外にも交換殺人を誰かが持ちかけられてる?
なんにしても自分の手を汚さずに交換殺人を成立させてしまいます。
ところが、それだけでもちろん事態は収まるはずもなく、さらには折りも悪く通り魔殺人まで起こりだし、主人公は疑心暗鬼と恐怖の中にたたき落とされていく――というお話。
なかなか伏線やどんでん返し、小ネタの配置がしっかりしているので、読み返すと「これは!」って気づきが多いかも。じっくり練られた丁寧なミステリですので、ほんと好きな方にはビシッとはまると思います。おすすめです。
とにかく『序章』がすごい!
夜の九時近く。
場所は人目につかない神社。
主人公はそこで人を待っている――相手を殺すために。
神社の石段から突き落とせば、事故として処理されるはず。とても『簡単な作業』のはずだった。
ところが、主人公は重大なミスに気付く。
ここからでは相手の顔がよく見えない。間違って無関係な人を殺すわけにはいかないし、かといって相手はどんどん近づいてくる……。
この高まる緊張感にドキドキして、物語にグッと引き込まれる。
そこから場面展開して第一話へ続いてゆくが、ここで話が緩むことなく再び引き込まれてゆくのが、この作品の素晴らしいところ。
もちろん、それだけでは終わらない。
次から次へと気になる展開が続く。
「この後どうなっちゃうの!?」と、読み進めずにはいられない。
気付けば、怒涛の勢いで読み終えていた。
最初から最後まで退屈することのない、まさに『読者を楽しませてくれる作品』だ。
***
一気に読むことができたのには理由がある。
とても文章が読みやすい。
読んでいる間まったく疲労を感じず、最初から最後までストレスなく読むことができた。
先の展開が常に気になり、十万字あるにも関わらず一気に読み終えてしまった。
こういった作品はなかなか稀有なのではないかと思う。
また、主人公は不動産会社の従業員だが、この設定に劣らず建築の話題がいろいろと出てくることも物語に深みを増していて良かった。
ときどき「ペデストリアン」とか「ディープウェブ」などの知らない言葉が出てきて「おっ?」となることもあるが、このあたりは意味がわからなくても問題なく読み進めることができる。
(同時に作者様はいろいろな知識をお持ちの方だと感心した。)
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作品のジャンルとしては『サスペンス』や『ミステリー』の類。
読者の興味を引く要素がそこかしこに仕掛けられている。
まず『交換殺人』というキーワード。
文字通り、自分が殺したい相手を誰かに殺してもらい、その「誰か」が殺したいと思っている相手を自分が殺す。そういう約束だ。
「そんなの本当にうまくいくのか?」とハラハラしてしまう。
章タイトルがそれぞれ『因』『果』『応』『報』になっているのもめちゃくちゃ怖い。
題材が題材だけに、ゾッとするようなシーンが何度もある。
『交換殺人』を持ち掛けられた主人公の葛藤や悩みや変化がリアル。
そして、「ミキ」という謎の人物。
ここにもまた何重もの仕掛けが組み込まれている。
登場人物たちはみんな一癖も二癖もあり、いかにもドラマに出てきそうな印象。
『サスペンス』や『ミステリー』といったジャンルゆえか、登場人物が全員怪しく見える。
日常生活の描写が綿密で、さりげない描写にもいちいち意味があるのではと勘ぐってしまうが、それはそれで楽しめる。
そして、アーッ!? まさかそんな展開に!?
と驚きながら読み進めてゆくと、途中で明かされる驚きの事実!
読み返してみると、たしかに何度も何度も伏線が張ってある。
うわー、全然気づかなかった! してやられた!
***
【※ここからややネタバレあり】
種明かし&クライマックスは人によって好みが別れそう。
でも、私は正直ほっとした。主人公の山瀬がずっと山瀬らしく在れたから。
それに、老人の愛人となって自由を奪われた女性は●●●った(ネタバレ回避)ということになる。それだけでも救われる。
ラストはまさに章タイトルを回収してゆく見事なオチだ。
物語は閉じるべくして閉じられる。
いやあ、それにしても。
交換殺人って――本当に難しい。
すべてのピースがかちりとハマるその美しさこそがミステリには求められている。
クローズドサークルものに代表されるような、余計なものを極限まで削ぎ落した無駄のない箱庭のような構成。
しかし、緻密に計算の上に作られたミステリは、ときに人間が描けていないと批判をされたりもする。
ヴァン・ダインの二十則で排除すべきものとして情景描写やラブロマンスが挙げられているように、ドラマを深める要素はパズラーにとって邪魔になる。
結果、キャラクターは駒に成り下がってしまう。
本作はミステリだ。最終盤において伏線は綺麗に回収され、ミステリとして閉じられる。
しかし、ドラマがないがしろにされているかといえばそんなことはない。
むしろ、生きたキャラクターが織りなす人間模様が、丁寧に丁寧に描写されている。
不動産関係の仕事をする語り手、山瀬の日常は閉じていた。
職場を除けば、コンビニの店員さん、ネットカフェの店長くらいとしか言葉を交わさない。
趣味も建築巡りで、おひとりさまで完結してしまう都市型人間。
しかし、それは山瀬にとっては守るべき日常だった。
上司によるパワハラという要素以外は。
指示通り動けば「言われたことしかできないのか」と叱責され、気を利かせれば「余計なことをするな、言われたことだけやっていればいい」とまた叱責。典型的なダブルバインド型のパワハラだ。
ストレスを吐き出すのは、ネットカフェからアクセスする闇サイト。
ある日、そこで交換殺人を持ちかけられる。
交換殺人、それは日常を守るための犯罪だ。
復讐のようにすでに日常が壊れてしまっているわけではない。
完全犯罪により、帰るべき場所としての日常を損なうことなく、そこに紛れこんだ異分子のみを消す。
だが、殺人もまた日常を毀損する行為なのだ。
山瀬にとって、それは乗り越えてしまうにはあまりにも高い壁だった。
闇サイトで交換殺人について語りながらも、決心まで踏み出せない。
そんななか、それがあったからこそ耐えられた最後の「希望」をも打ち砕かれ、ついには心を決める。
その過程が、そして「計画殺人」という外因子によって間接的に人間関係へと広がっていく波紋がしっかりと描かれていく。
事態は混迷を極めた末、ミステリとして物語は閉じられる。
そして、その先に訪れる結末。
作者という神によって振り下ろされる「最後の一撃」。
それは、キャラクターに寄り添う視点でドラマが描かれてきたからこそのものなのかもしれない。
誰しもが、少なかれは心に闇を抱えているものでしょう。しかし、その闇が一寸先も見えないくらい深く真っ暗に染まったとき、人はポッカリと開いた穴に落ちるのかもしれません。
この作品の主人公の山瀬もその一人です。
大好きな建築に携わる仕事に就いた山瀬は、生真面目で努力家。今日も顧客にために資料を作り、その勉強も欠かしません。だけど、やっぱりその心には大きな闇が渦巻いています。
傲岸不遜の上司から受ける、度重なるパワハラ。
その不満を、ネットカフェから通じる闇サイトへと吐き出すのが日常でした。
そんなある日、甘い誘惑の言葉が囁かれます。
『交換殺人』
初めのうちこそ、怖じけつき、傍観者を気取っていましたが、パワハラ上司のさらなる昇進と建築から遠く離れた部署への配置転換をちらつかされ、交換殺人を決意します。
ミステリー好きな作者だからこその、二転三転とするストーリー。その深い心理描写に、山瀬と重なり、物語に引き込まれること請け合いの作品です。
そして最後に待ち受ける、大どんでん返し!
すべての登場人物から、目を離せられない作品です。
あなたも闇を覗いて見ませんか?