「たまゆら」の先にあるものを、見つけにいこう

東京の片隅の、ちょっとレトロな集合住宅「アパートたまゆら」。
そこの部屋を気に入って住みはじめた女性と、偶然隣に越してきた男性。
ひとり暮らしに憧れる若い人、かつてをふり返る大人、そのどちらの心もときめかせる世界が、ここにあります。

ひょんなハプニングから、少しずつ、少しずつ、二人の距離が近づいたり、離れたり。昨今、どんな創作物にもスピーディな展開を求めがちな我々を「まあまあ」となだめつつ、ページごとに仕込まれているほんの少しのドキドキやハラハラが、俯瞰してみると大きな展開になっていることに気づいたときにはもう、すっかり物語の世界に入り込んでいるのです。

作者の大人気作『炭酸水と犬』が〝動〟だとしたら、この『アパートたまゆら』は〝静〟。
そんな対極の色のような物語なのに、読者をしっかりと各々の世界にいざなってくれるのです。それは、それこそが、砂村さんの紡ぐ言葉の魅力なのかもしれません。

この物語を開くとき、「たまゆら」という言葉の意味を、あなたはまず調べるでしょう。それを心の片隅におきつつ、その先にあるものを、一緒に見つけにいきましょう。



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