観察眼に優れ、細かなことになんでも気づいてしまう主人公の渉
少しマイペース気味だが、真面目で必要な仕事はきっちりこなすヒロインの茅子
お調子者で思慮が足りない遠藤や、茅子を狙っているイケメン営業マンの清水など、二人の恋は静かなようだが、それより周りが騒がしい。
眼鏡からコンタクトに変えた時、新しい一面が輝いて見えた。
突っ走りすぎて頬にキスしてしまったら、嫌われたと思って失意に飲まれた。
彼女の秘密を知った時、一般論しか言えないけれども、何かをしなくちゃいけないと、焦燥感にも苛まれた。
君がアイツと出かけた時、倫理感もかなぐり捨てて走った。それほどまでにもう、恋していたのだ。
どこかにありそうな日常。
その中でも目を凝らしてごらん。
あなたがドラマチックを見つけた時、物語はきっと光輝くのですから。
社会人になりたての渉くん、同じ部署の茅子さんはメガネをかけた大人しそうな同僚です。
決して特殊な会社ではないし、特別な営業職でもない、ブラックな企業でもなく、あくまで平凡な会社員の二人。
スタートはこんな感じなのですが、もちろんそれだけではありません。
ヒロインの茅子さんは地味な感じではありますが、メガネを取ると可愛い美人さんです。
しかも仕事が出来て、気配りも出来てと、秘かに社内での人気もあります。
渉君はといえばメガネを取った彼女にすっかり恋をしてしまい、群がる社内のライバルにやきもきしながらも、ひそかに思い続けております。
とはいえ、もちろん恋にばかりかまけてもいられません。
新人なので仕事を覚えることも大事だし、同期や先輩やらとの付き合いもあります。
そして茅子さんには実は簡単に踏み込んではいけないような秘密があって……
と、これぐらいのあらすじなら大丈夫でしょうか?
実はまだまだいろんな展開、キャラクターが待ち構えています。
読めば読むほど面白みが増していくので、この先はご自分で是非読んで見てほしいですね。
この作者さんの物語は丁寧な言葉の選び方、文章の運び方ですごく読みやすいです。読んでいてリズムがいいな、としみじみ思います。
そしてするりと物語世界に入り込んでいくような感覚があります。
日常を舞台にして、仕事内容とか組織のあり方、人間模様なんかもすごくリアルに感じます。
そう言った世界にあって、普通に暮らしている人にも実にさまざまなドラマがあり、決断があるんだな、と思わせてくれます。
人間ってこういうモノなんだよな、そんな感想がでるのは、わたしにとっては良い物語の証拠。
そんな感情を抱ける作品だと思いました。
渉くんは、同じ職場で知り合った茅子ちゃんに惹かれて、お近付きになろうとします。
紆余曲折の末、親密な関係になったと思ったところで、茅子ちゃんからのカミングアウトに、途方に暮れてしまう渉くん。
茅子ちゃんの抱える事情は、渉くんの想像の範疇を超えるものでした。
渉くんは茅子ちゃんの信頼を勝ち得て、家族になることが出来るのでしょうか?
オフィスラブコメという体裁を取りつつも、ある社会問題について鋭く切り込んでいます。
おそらく、一般的にはそれほど詳しく知られていない事柄でしょう。
やや重いテーマを含みつつも、作品としては基本的にコメディタッチで綴られていて、深刻にならずに読めます。
なお、概要欄の参考記事、上のふたつが『児童養護施設について』、一番下が『里親制度について』の記事となっております。
伝えたいメッセージは、チョコレートでコーティングするというのが、奈月沙耶様のお考えのようですが、その目的はある程度達成出来ているかと思います。
あと、お仕事小説としても高い水準を保っております。
小説ごとにお仕事の内容が変わるのに、内容が詳細なのはどういうことなのか?
さすがはカクヨム界の竜王様でございます。
若手の営業職、渉が気になるのは、営業事務の女の子茅子。仕事を覚えなければいけないのはもちろんですが、それはそれとして、気になる気持ちは止められません。果たして、恋と仕事は両立できるのか?
恋愛が主軸の本作ですが、営業職や事務などの仕事に全く自分にとっては仕事の苦労や達成感を少しずつ覚えていく渉の姿が新鮮で、お仕事小説としても楽しめました。キツイことを言われて心折れそうになった時などは、思わず頑張れとエールを送ってあげたくなります。
ですが、そんな疲れた心を癒してくれるのは、一読者のエールではなく、気になる相手茅子さん。できることなら、もっと彼女の事を知りたい。もっと距離を縮めたい。それは、場合によっては仕事以上に重要な案件なのかもしれません。
しかしこちらも、仕事同様順風満帆とはいかなくて……
恋に仕事。失敗や悩める部分も多いけど、めげずに頑張れ渉君!