第16話 エリゼとワタシ

「なっ? 出来そうだろ?」


「…… うん。 ……凄い」


 エアルタイト融解の術式をエリゼに伝えるワタシ。

 しかし、融解方法が出来ても肝心のエアルタイト自体を手に入れていない状況に変わりはない。


「ねぇねぇ? えあるたいと? だっけ? あれはどうやって手に入れるの?」

「あれか? あれもまぁコイツ次第かなぁ! コイツに頑張って作ってもらうつもりだからな」


 ガシガシと手荒にエリゼの頭を撫でながら、白い歯をティナに見せるワタシ。


「…… エアルタイトって魔鉱石よね? どうやって作るの?」

「そういう知識はねぇのか? 偏ってんなぁお前の魔法の知識は」

「…… ごめんなさい」


 冗談のつもりで言ったワタシの発言に、耳をシュンっと萎れさせ割と本気で傷ついた様子を見せるエリゼ。


「ちょっと! お姉ちゃん! 手伝ってもらうのに酷い事言わないでっ!」

「あっ、 悪い悪い。 魔鉱石ってのは、魔法で鉱物を砕いた時に魔素と元素が結合して出来る偶然性の高い鉱物なのよ! んでな」


 ワタシはエリゼの頭を優しくポンポンと撫でながら話を続ける。


「エアルタイトを作るには、確か薔薇色の大理石を真空系の魔法で粉々にした時に出来るはずでさ! 真空系の魔法は出来るよな?」

「…… 出来なくはない。 でも…… 自信無い」

「使えねっ…… っと」


 思わず罵倒しそうになるワタシをジロリと睨むティナの視線に気付き言葉を止める。


「じゃ教えてやるよ! 真空系って火炎とかと違って自分で生み出す魔法じゃないから結構簡単だぞ!」

「エリゼちゃん大丈夫? 一度にそんないっぱい魔法覚えたりして」

「…… 大丈夫。 でも……」

「でも?」


 エリゼはチラッとワタシの方に視線を向け、


「…… そんなに知識があるなら、自分でやれば良いのに…… とは思う……」

「んぐっ。 出来るわけねーだろ。 人間なんだよ俺は! に・ん・げ・ん!!」

「…… 知ってる」


 ボソッと小声でそう言ったエリゼは、左拳を口元に当てフフッと笑っているようだ。


 エリゼのその打ち解けた様子に安堵したワタシは、さっそくエリゼへ魔法個別指導を開始していく。


「そう言えばドラちゃん待たせたままだったね! お姉ちゃん! ちょっと行ってくるね」

「あっ? あぁ」


 ティナは入り口付近で待つドラちゃんの元へと行く為に、部屋を後にする。


 エリゼの部屋で二人きりになったワタシとエリゼ。 エリゼはその時を待っていたかのように、ワタシへ話しかける。


「…… ねぇ? 本当の本当にオレ様なの?」


 突然、ワタシにそう問うエリゼ。

 よく考えてみると、過去に5度程バラバラの肉片にした事のある元勇者様御一行の魔導師ウィザリスの子孫だというエリゼ。

 魔王オレの事を恨んでいてもおかしくはないだろう。


「あっ? あぁ。 まさかとは思うけど、やっぱ恨んでたりするのか?」


 そう問うワタシの目をジッと見ると、ふるふると左右に首を振り口を開く。


「…… そうじゃない。 もし本当にオレ様なら…… これからも…… 魔法教えてほしいなって思って……」

「えっ? 別に良いけど、逆に何で恨んだりしないんだよ」


 想像の斜め上を行く返答に、思わず逆に質問をしてしまうワタシに、


「…… 魔法しか…… 興味無いし……」

「そっ、そっか。 変な奴だなお前って」


 ワタシの「変な奴」という言葉を聞いて耳をピクピクさせ、どこか嬉しそうなエリゼを見て、「いやいや褒めてねーよ」と喉を通り越して前歯の裏まで言葉が出かかるワタシだったが、グッと堪え言葉を飲む。


「…… ところで、薔薇色の大理石なんてどこにあるの?」

「それか? まぁそれに関してはアテがあんだよ!」


 丁度その頃、ドラちゃんを呼びに言っていたティナが部屋へと戻る。

 ドラちゃんはその家、部屋の様子に唖然としながらキョロキョロと部屋を見渡している。


 ワタシは、キョロキョロするドラちゃん、椅子に座っているエリゼ、ティナの顔を見渡すと、


「戦士に魔導師。 なかなか勇者様御一行っぽくなってきたなぁ! 今の所ティナは戦力外だけども」

「ちょーーーっと! 戦力外って何よ戦力外って!」

「いやぁ、だってティナは魔法も戦闘も出来ないだろ? 逆に何が出来るんだよ?」

「んぐぐっ」


 言葉の出ないティナを庇うように、エリゼとドラちゃんが口を開く。


「…… ティナは必要。 友達だから」

「そうですぞ! 手前もティナ殿の明るい性格に助けられておりますし」

「2人とも……」


 社交辞令のような2人の言葉に感動しているティナ。


 こうして勇者、妹、戦士、魔導師の4人編成パーティーが完成したのであった。



「よし! とりあえず行くか?」

「行くってどこへよ!」

「そんなの決まってんだろ! 全員ついてこい」


 ワタシの言葉を聞いた3人は、どこへ行くかも知らされずエリゼの部屋を後にする。


 道中、ティナがエリゼの服装を見て、


「エ、エリゼちゃん? その格好で平気? 服貸そうか?」


 薄暗い室内ではわからなかったが、エリゼの所々破れた黒のワンピースは、腰や胸元までダメージ加工のスリッドが入ったような状態になっており、少し下着まで見えている。


 その姿に、道行く男性が思わずチラチラと視線を送る。


「…… 良い、気に入ってるしコレ」

「そっ、そう……」


 人間が多いミランテ共和国で、可愛さで目立つワタシ、露出の多いエリゼ、リザードマンのドラちゃんはある意味で注目の的になっており、その視線を同時に浴びるティナは少し気恥ずかしいようだ。


「ねっ、ねぇねぇお姉ちゃん」

「あっ? どした?」

「もうちょっと目立たないように歩けないかな?」


 ティナはワタシの傍まで近寄ると、ヒソヒソと耳元で囁くように言う。


「そだなぁ! じゃちょっと二手に別れるか!」

「二手にって?」

「ティナとドラちゃんには新しい家を見つけてきてほしくてさ! 綺麗で広くてそれぞれに個室があるような!」


 今後行動を共にする予定のメンバー全員で住める家を希望するワタシ。


 エリゼは家があるのでその提案を拒否したが、毎回あのホコリまみれの家には行きたくない。

 かといって、今のティナとワタシの家では手狭過ぎる。

 その為、今後拠点となるような家を探すようにティナへとお願いしたワタシ。


 それにより、それぞれ別行動をする事になった。


 ティナとドラちゃんは物件を探しに街へ、ワタシとエリゼは大統領府へと足を運ぶ。

 大統領府まで着いたワタシ達は、門番へ大統領への謁見を頼みしばらく待つ事になった。


「…… ここに何かあるの?」

「あぁ。 昨日来た時にちょっと見つけたもんがあってさ」


 エリゼとあれこれ話していると、門番から呼び出された2人は中へと入る事に。

 ミランテ大統領のリアレスが、ワタシとエリゼの元へやってくるとエリゼに視線を送り、


「お待たせしました。 えっと、その子は?」

「コイツか! 新たに仲間にした魔道士だな! そんで頼みがあるんだけどさ」

「頼みですか?」

「あぁ、さっそくだけどそれ2本くれよ」


 ワタシがそう言い指差した先には、謁見の間へと続く通路を挟むように並べられた、薔薇色の大理石柱がある。


「くれよ…… と言われましても」

「ケチケチするなよ! 実はマジで必要でさ」


 薔薇色の大理石は、魔鉱石までとはいかなくても、あまり市場には出回らない希少な鉱物である事は間違いないだろう。


 それを大量に用意するには、時間がかかりすぎると判断したワタシ。

 リアレスにこれまでの経緯を説明し、半ば強引に柱を二本頂こうという作戦だ。


「しかし、柱を二本というのは……」

「協力するって言ったろ? まぁシャルの為だと思って諦めるんだな」


 少し項垂れるリアレスの肩をポンポンと叩き、柱を切り出す事に。


 大統領府の裏手にある少し広めの芝生が広がる中庭に運び出された薔薇色の大理石柱。

 エアルタイトを作り出すには、それを真空系魔法で粉々に砕く必要がある。


「さっき教えたの出来そうか?」

「…… やってみる」


 エリゼが目を瞑り、ブツブツと術式を詠唱する。

 すると、エリゼを中心に風が巻き起こり木の葉や草が空へと舞い上がる。


「やぁぁぁぁ」


 カッと目を見開き、大理石柱めがけて魔法を放つエリゼ。


 ドカッ………


「だめかぁぁ」

「…… うん」


 大理石柱には深い切込みが刻まれたが、粉々に砕くには程遠い状態だ。


「…… ごめんなさい」


 耳を萎れさせ、俯くエリゼの後ろに回り込み、そっとエリゼの両手首を後ろから添えるように持つワタシ。

 ワタシはエリゼの後頭部に自らの額をつけ、耳元で囁くように言う。


「俺の頭の中が読めるか?」

「…… うん」


 魔力0のワタシは、その考えを相手に伝える事は出来ないが、エリゼがワタシの考えを読み取る事は出来そうだ。


「集中して俺の頭の中だけ読み取れ」

「…… やってみる」


 ワタシはそう言うと、頭の中で呪文を詠唱し右手に持ったエリゼの手を上に掲げる。

 すると、先ほどとは比べ物にならない程の風が、掲げた右手を起点として巻き起こる。


「行けっ!」

「……っ」


 ワタシの言葉と同時に振り下ろされたエリゼの右腕。

 そこから放たれた風の刃は大理石柱へと、まっすぐ向かっていく。


ズガーーーーーーーン……


 放たれた風の刃が大理石柱へと衝突すると、それは粉々になり砂塵のようにパラパラと舞う。


「出来たなっ! って大丈夫か?」


 エリゼは魔力を著しく消耗したせいか、その場に崩れ落ちるように腰を抜かす。

 倒れないように、後ろから抱きかかえるワタシ。


「…… なんとか」


 先程まで大理石柱があった場所には、砂の山が出来ている。


「エアルタイトは出来たかなぁ?」


 エリゼを地面の芝生へと座らせ、ワタシは砂の山の方へ向かう。

 サラサラとした砂の山を手で掻き分けると、その山から緑色の小石が沢山見つかった。


「おーーい、出来てるぞ! やるなぁお前」


 エリゼの方に視線を送りワタシは満足気に笑顔を向けると、


「…… やっぱ凄い」


 ワタシに聞こえない位の小さな声でボソッと囁くように言うエリゼ。


 こうして、無事エアルタイトを手に入れたワタシとエリゼ。


「ティナ達と合流するか? って本当に大丈夫かぁ?」

「…… うん」


 持参した革袋いっぱいにエアルタイトを詰め、エリゼに肩を貸しながらティナ達と決めた待ち合わせ場所へと歩を進めた。


 

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魔王オレと勇者ワタシ 松本味噌味 @omisosu

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