いくら注いでも乾いている

「死んだ方がいいダニども……だが、殺す奴の人生は決して広がらない」……福本伸行先生の『銀と金(双葉社)』に、そんな主旨の台詞が出てきた。本作はダニどころか死ぬ必要の全くない人々が理不尽に殺害され、その下手人がああした結末に至る。それを乗り越えてなお読者を惹き付け続ける魅力をたたえている。なにより主人公は失われた情愛(決して愛情ではない)を求め続け、乾き続け、さ迷い果てる。事件という名のオアシスだけが辛うじてまっとうだった頃の人生を思い出させる。と同時に次の乾きを引き起こす。
 全く、世の中は不条理に乾いている。だから主人公が愛しくてたまらない。