第106話 【完結】戦いの果てに残るもの

……夢をみた。


真っ白な部屋だ。

そこに几帳面で不健康そうな…裏切りが得意そうな細身の男と、大事な姫とオマケ(俺)を助けたせいで、一番大切だった元の世界の家族に戻る約束を守り損ねたバカな野郎の二人が苦笑いで立っていた。


うぅっ…卑怯だ。


俺はこの二人に掛ける言葉がない。

掛けられる言葉なんてない。

目から滲み出る汗で、姿がボヤけちまうじゃねぇか。


そんな俺の様子を見て、怒るわけでも無く、泣きわめくわけでも無い二人。

むしろ、「なんだかなぁー」と聞こえてきそうな顔をしてこちらを見てる。


なんか腹立つな…


黙っていても始まらないので、おそるおそる声をかけてみた。

「へ、ヘッケラン…それに、レン…」


「なぁに辛気臭い顔しとんねん自分は、もちっとシャキッとせんと!」

「そぉですねぇ、私の野望を打ち砕いた張本人の顔には見えませんなぁ」


「いや、だってお前ら…俺のせい、で…その、あの」


「はぁ?何が、俺のせいでぇ…やねん、ボケ!俺がシャルを守ったんは俺とシャルの約束や。ユウト、お前はオマケや、オ・マ・ケ!」

「ユウト様、私は返り討ちにあっただけですよ?怒鳴られる事はあっても、そんな顔をして頂く義理はありませんが」


二人は俺を責めない。

そんな軽い話じゃないはずだろ。


「ち、違う!俺が…俺がもっと上手く選択していれば、もっと注意深く考えてたら二人の結果だって変わってただろ!?」

「なんや…お前さん、自分は一人で戦っとったっちゅうんか?ちゃうやろ。みぃーんな自分で考え自分で選んだ結果や。それに、俺はこれで死に戻りも試せるしな」


怒ったかと思うと直ぐにケラケラ笑うレン。


死に戻りは死んだらすぐ現世に戻るんじゃねぇのかよ!?

じゃあ、失敗してるだろ。

何笑ってやがんだよ。

なんか、真面目に答えるの馬鹿らしくなってきた…


「…いや、だってお前、成仏してねーじゃん!もう化けて出ちゃってるじゃねぇかよ」

「化けて!?ま、まぁ、ええわ…エライ急に元気になったけど、それでこそユウトらしいちゅーとこか」

「お話がまとまったようで結構ですな。それではユウト様、もし地獄に来られる事があれば…その時はまた宜しくお願いします」


「ちょ、まてよ!俺はまだ聞きたい事も言いたい事だって山ほど」


夢の中のヘッケランも俺の言う事を聞いてくれる気は無いらしい。

別れの挨拶が出来れば十分だと言った感じで、スッキリした顔をすると深く一礼し、スーッと消えてしまった。


「ほな、俺もこれから嫁さんとこに帰れるよう試行錯誤してみるわな!」

「やっぱり帰れて無いじゃんか、なぁ、レン…俺も、俺に出来ることは何でもやるよ」

「ユウト…そりゃ楽しみやな、ほななっ!」


ニヘラと笑みを残し、レンも消えてしまう。

二人の最後の笑顔だけが瞼に焼き付いたように鮮明に残ってる。

静かに目を瞑ると、言いたい事だけ言って消える二人に、俺も苦笑がこぼれた。

そして、俺の意識も白い部屋に溶けていった。








ーーートプの大森林


俺たちは今、トプの大森林に来ている。

ベルセウブとの戦いが終わって、俺は丸一日寝ていたらしくて、ここに来るのが遅くなってしまった。

変な夢をみたせいで、寝起きはそこまで悪い気分じゃなかった。


時間があったおかげか、シャルも少し落ち着きを取り戻していたし。

俺は話し合いをできてないけど…

国王の悪魔化解除が間に合ったのも大きかったんだろう。

家族全員が無事なのは奇跡的だったから、それだけでも救いだよ。

人間、辛い事だけだとやっていけないもんな。



起きてからは、すぐに準備をして遺跡を守ってもらっていたアキラに会うため、ここまで来たんだが…

どうやら一足違いで精霊王の所に行ってしまったらしい。

俺達が来るのが遅くなってしまったので、待ちくたびれたようだ。


それを教えてくれたのは、精霊王の元に向かう前に留守番をしていたアニマルファイターズの面々だったんだが。

いつの間にアキラと仲直りしたんだろうか…

結構ビビってたのにな。


精霊王のガーディアンが一体やられた事や、アキラが悪魔相手に大立ち回りしていて凄かったと鼻息荒く語ってくれた。

アキラの評判が上がったみたいで、名誉回復できて良かった…のだろうか。

森を荒らしてたから、その事を知ってる相手には微妙な顔されてたし、好感度が上がるのは悪い事じゃないだろう。



精霊王の元に行くと、アキラが我が物顔で寛いた。


「…遅かったね、待ちくたびれたよ」

「悪いな、色々あって遅くなった。遺跡…ありがとな、まぁ無駄になっちまったけど」


誰からか情報が回っていたらしく、俺の言い回しにアキラは特に驚いた顔をしなかった。


「…レンが死んだらしいね、殺しても死ななさそうなのに」

「そんな言い方酷い!……レンが可愛そう」

シャルが強く睨んだ後顔を伏せた。


「…別に悪い意味じゃ……まぁいいや、復活や蘇生は無理だった?試したんでしょ」

アキラは少し顔を顰めたが、シャルの様子を見てその先は言わずに飲み込んだようだ。


「…もちろん。復活はシュウトの話から無いとは思ってたけど、蘇生アイテムならと試してみたよ…結果は見ての通りだけどな」

俺が倒れてからティファ達が試したみたいだけど、やはり効果が無かったと教えられた。


「…そうか、元プレイヤーなら或いはと思ったんだけど……そうだ。キミなら何か分かるんじゃないの?」


アキラは黙って俺達の話を聞いていた大木…こと精霊王に尋ねた。


「そぉ…じゃのぉ……人が死ねば、土に還り…妖精が死ねば…精霊に戻る…じゃがぁ」

幹に空いた大きな空洞が俺を見た気がする。


「おぬしら…異界の人間なれば……魂を呼び戻すことなら…可能かもしれん、のぉ」


予想外の一言が返ってきた。


「なにっ!?本当かっ、ど、どうすれば、何があれば良い?なぁ、教えてくれっ」


思わず幹に向かってつめ寄ろうとした俺を、体から僅かに光を放つ妖精の腕が押し留めて来た。

「…落ち着け、人の子よ」

エレメンタルガーディアンのメリダスだった。

…やられたのってコイツじゃなかったのか。


話に割り込んで来て、人如きが精霊王様に近づくのは失礼極まりなくて、なんちゃらかんちゃらと…

無駄にティファ達のヘイトを稼ぎ始める。

大事な話を聞こうとしてる時に、話をこじれさすのは止めてくれよ。


「ふんっ…しかし、人の想いの強さだけには眼を見張るものがある。」


精霊王とテレパシーでも飛ばし合っているのか、頷くと俺をじっと見てくる。


「な、何が言いたいんだ?小言なら後で聞くから…」


含みのある言い方じゃ分からないので、直接聞くため、精霊王に近付こうとメリダスの腕を押しのける。

俺の能力が上がっていて、予想以上の力だったのか、メリオダスが必死になって止め来た…


「だから近付くな!お前の持っている一番大切な物を差し出せば良い!それで試して頂けるのだ」


「…一番、大切な物?」


対価として大切な物を差し出せって事か。

たしかによくある話ではあるな。

一番大切なのは…仲間達か。

いや、でも物じゃないしな、渡せるもんでもない。

じゃあなんだろうか、屋敷に地位や名誉……って、んなもんは別に大事でもないか。

他に何がある?ナニか、いや、真面目に考えよう…


アイテム?…そうか、そうだ、アイテムボックスか!


俺を今まで支えて来てくれたのは、仲間達と大量に抱え込んでいたアイテムだった。

これが無ければすぐに死んでいたはずだし…今みたいに皆の信頼を勝ち取れていなかったと思う。

だけど、本来の力が戻ったとは言え…俺はこれを手放せられるのだろうか


「おヌシの大切…は、その程度……なのかのぉ?答えは…でとるので…あろぉに」


今にも泣きそうな顔でシャルが俺を見てる。

「……ユウトさん」


…分かってるよシャル。

心配すんなって、俺だってケジメの取り方くらい分かってるつもりだ。

ただ、ちょっと感傷に浸りたかっただけだからさ。

…そうさ、分かってんだろ俺。

アイツへの謝罪がこれで済むなら安いもんだ!


「アイテムボックスを差し出す。これでレンを呼び戻してくれ!」



覚悟を決めた俺は、精霊王にアイテムボックスを差し出す契約をした。

その見返りはレンの精神を呼び戻してもらう事だ。


精霊王に触れて契約を果たすと、俺の中から何かが消え去った感覚がした。

心にポッカリと穴が空いたような感じだ。


契約を確認した精霊王は体を光り輝かせると、枝葉をゆらす。


「…さぁ…蘇るがよい…迷える……魂よぉ」


妖精の王女が妖精を生み出した時のように、光が集まり形作られていく。


精霊王によって呼び出されたレンは、バツの悪そうな顔で佇んでいた。


「…なんや、その…早い再開で照れるわ」

「レェェンッ!!」


見慣れたレンの姿にシャルが飛びつくが、腕は空を切り反対側に突っ伏してしまう。


「だ、大丈夫かシャル?相変わらずおっちょこちょいやなぁ」

「……レンのバカ」


レンに触れる事は出来なかったが、話は普通にできた。

夢の続きのように皆でレンを囲み話をした。

三姉妹達とは憎まれ口を。

俺とは約束について。

ルサリィやベイリトールとは談笑していた。

そして、涙ぐむシャルには兄のような、父親のような優しい顔で接していた。


いつまてまも続くような錯覚を破り、現実に引き戻したのはアキラの一言だった。


「…それで、現世に戻る実験はやるのかい?」

「…そやな、このままオバケになっても覗きくらいしかやる事無いしな!世話になるで、アキラちゅわん」


「…レンのアホ」

「…同感だね、手元が狂うかも」

「二人してキッツイなぁ」


レンへの愚痴に笑いが起こり、寂しさが残った。



それから俺達は、再度遺跡へと向かった。

道中も色々と話をしたんだけど、一瞬で着いてしまったように感じた。

心がフワフワとしていたみたいだ。

みんなも同じ気持ちだったと思う…


遺跡に着くとアキラはテキパキと準備を整えてしまい、その時はすぐにきてしまった。


「…もう何日か延ばしてもいいんだぞ?」


「んー…なんや、辛くなるだけやしな。別れも言い終えたし行くわ」

「…レン……レン、ありがとう…わたし…」


言葉を無くすシャルを抱きしめるように、レンが優しく撫でている。

…触れないのがもどかしいな。


「ほんじゃまぁ…今まで楽しかったわ!みんな、おおきにな!……ユウト、約束託したで?シャルの事泣かしたら、殺しに行くからな?」

「…おう。任された二度と来んなよ!」


俺とレンは笑いあった。

それだけで十分だった。


「…それじゃあ行くよ」



転送は成功…したと思う。

確認する術がないので、後は祈るだけだ。

無事に戻って、奥さんと子供の元に帰りつけた事を。



「…行っちまったな」

「……はい。」


レンが居なくなった遺跡を見渡す。

皆が俺を見ている。


「まだまだやる事は山積みだ!みんな帰るとするか…俺たちの家にっ!!」

「「「はいっ!!」」」


仲間達の声を背に俺は家へと歩き出した。





……fin

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