抱えきれない哀しみと共に。

ショパンの夜想曲。軽快なCMのイメージだったその曲は、この物語に出会って印象を変えた。
抱えきれない哀しみが、夜の静寂に響く。

罪だと戒めても、消えることは無い疼き。
甦る過去と現実の狭間で。
欲望と理性に踏みにじられて。

自身の性癖に苦しみ、追い詰められる主人公の明夫。彼が石積職人であることは、何かの暗示のように思われた。
必死に積み上げた日々が、いつしか歪み、崩壊していくこともある。

何故、このようにしか生きられないのか。
この先に未来はあるのか。

答は夜の中に閉ざされる。
それでも明夫は目の前の日々を生きる。
重い石を、一つずつ積み上げるように。

押し殺してきた心が牙を向く時
沁み入るような音が降る。
静かに、涙のように。

ピアノが響き出す。
魂の震えのような旋律。
それぞれの哀しみが、夜の中で響き合う。

何故、このようにしか生きられないのか。
この先に未来はあるのか……。

果てしない暗闇。
けれど見上げた空には。
涙のような星が、静かに輝いている。

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