ショパンの夜想曲。軽快なCMのイメージだったその曲は、この物語に出会って印象を変えた。
抱えきれない哀しみが、夜の静寂に響く。
罪だと戒めても、消えることは無い疼き。
甦る過去と現実の狭間で。
欲望と理性に踏みにじられて。
自身の性癖に苦しみ、追い詰められる主人公の明夫。彼が石積職人であることは、何かの暗示のように思われた。
必死に積み上げた日々が、いつしか歪み、崩壊していくこともある。
何故、このようにしか生きられないのか。
この先に未来はあるのか。
答は夜の中に閉ざされる。
それでも明夫は目の前の日々を生きる。
重い石を、一つずつ積み上げるように。
押し殺してきた心が牙を向く時
沁み入るような音が降る。
静かに、涙のように。
ピアノが響き出す。
魂の震えのような旋律。
それぞれの哀しみが、夜の中で響き合う。
何故、このようにしか生きられないのか。
この先に未来はあるのか……。
果てしない暗闇。
けれど見上げた空には。
涙のような星が、静かに輝いている。
石積み職人の主人公。
子供時代に嫌な経験をして、逃げるように現在にまで生きてきました。
楽しみは移動の車の中で聞くラジオ番組。
お気に入りのパーソナリティーがいます。
姪っ子にせがまれ夏祭りへ出かけ
そこで嫌な経験の張本人に再会、やけに馴れ馴れしい。
足の悪いような歩き方、事故の後遺症。
失明した息子と一緒でした。
主人公の性癖の問題もあり
といっても冷静で客観的でもあるため
問題を起したことはなく、でもいつかと怖れをいだいています。
わかりやすくパッパッとは展開していきませんけれど
文学の雰囲気の文章で徐々に進んでゆく様は
読者に主人公と同じ時間を感じさせるようなところがあります。
ラスト、
登場人物たちが抱えた問題に前向きに取り組もうとしはじめるところが
よい終わり方だと思いました。
エンタメで楽しませようという小説ではありませんけれど
読みながら考えたいという人の読書には向いています。
子どもの頃に虐めを受けると、心の中に爆弾を抱える。子供心に爆弾は着火させない。何故なら、爆発してしまうと周囲に飛び散るのを知っている。
親との確執がありながらも老々介護を強いられる世代。潜在的に社会的責任感を抱く。本当は逃避してしまいたい!と思う日もあるのだが。
LGBTに象徴される性癖。何でもオープンに発信出来る世の中になった。しかし、黙秘しなければならない。本能的に大和魂はそうさせる。
家庭内のさまざまな問題、離婚やDV、家庭内別居や不倫…。一瞬、何処かで歯車が狂う。けれど完全修復に努力はせず、未来ばかりを見詰める現代人。
さまざまな現代社会の問題・課題を、主人公の子ども時代から独り身の職人になるまでの人生に重ねて構成する。上記の問題ひとつを取り上げただけでも1話で完結する現代風刺を、寺院や僧侶、伝統の石積み職人などを演示させ、見事に散りばめている。