彼女たちは、「アプリ上の子供たち」を育てる

 昔昔、たまごっちというゲームがありました。あるいはデジモン。今でこそ進化した液晶画面でカラーの綺麗なキャラクターを愛でることができるゲームになっていますが、僕たちにとっては黒と白のドット絵でかわいい(あるいはカッコいい)かどうかは想像力で補うしかなく、その上ちゃんと食事やトイレの世話してあげないとすぐ死ぬかあるいはキモカワ枠のオヤジっちになってしまうわで、学校に持ち込んで世話しては教師に没収されのバトルを繰り返していました。そんな体験をしてきたあなたにオススメの作品です。

 このお話ではそこからだいぶ進歩して、子供を育てるアプリが子供の教育に用いられている。持ち込んだら即没収のたまごっちやデジモンとは違い、育てることが道徳教育になっていて、しっかり世話したかどうかが(女子限定かな)内申点になり、社会へ向かう準備となる。
 子育ては、当然ながらたまごっちよりもずっと大変だ。
 子どもは夜泣きする、母親が離れればすぐに泣く、目を離せばその隙に転んだり怪我してしまうかもしれない。しかも誰一人として同じ子はいないから、そういう苦難を他人が100%理解してくれるとも限らない。少女たちはそういう子育ての苦悩をリアルに体験していく。
 一方で、このシステムには仮想空間上の子供に人権はないのだから教育に利用してもいいという大人の身勝手な都合が見え隠れしている。これが、純粋に子供たちが遊び愛するためのものだったたまごっちとの二つ目の違い。
 多感な少女である主人公達は、都合のいい教育道具にされてしまった「仮想空間」上の子供を見て何を感じるのか。そこはぜひ本編を読んで確かめてほしいです。

 あと最後の二人の宣言が非常に尊い。昨今SFマガジンで特集され重版がかかるほどになってる百合SFの潮流を感じました。そういう意味でもおすすめです