第8話 対艦戦の決着
その時、ララ様から通信が入った。
「ハーゲン少尉。よくやったと言いたいところだが他にもいる。気をつけろ」
「申し訳ありませんがもう動けません。ララ様は退避を」
「馬鹿を言え。貴様を置いて逃げれるものか」
(10時の方向より艦砲射撃です。3秒前、2、1)
クレド様より精神会話が繋がるものの回避する余裕はない。
10時方向へ盾を構えると同時に盾にビームが着弾した。盾で防ぎ拡散させる。これで霊力が尽きてしまった。もう次の攻撃は防げない。
光学迷彩が解除され、10時方向にゆっくりと姿を現すのは、黒色でサメのようなスタイルをしているアークレイズ級駆逐艦だ。俺はゼクローザスの内蔵兵器である47㎜砲と20㎜機関砲を準備する。右肩と左胸の装甲が開き砲身が顔を出す。
モニターにロックオンの表示が出ると同時に引き金を引く。砲弾はアークレイズ級に吸い込まれ、艦尾部分に火災が発生した。しかし、再び発射されたビーム砲で盾と左腕が溶解してしまった。
(直上より戦闘機です。接触まで5秒、4、3、2、1)
急降下してきた戦闘機バーダクライド二機に銃撃される。こいつらはブーメランのような形状の無尾翼機だ。弾が何発かは操縦席に飛び込んできた。
大気圏内で宇宙戦闘艦を運用する場合、重力制御の関係で動きが緩慢になる。火力は強烈だが動きが遅いので相応の装備があれば狙い撃ちされる。バックアップする艦艇や航空機がいるのは必然なのだ。
戦闘機は大きく弧を描いて旋回し上昇していく。その戦闘機が一機、炎に包まれて墜落した。もう一機も翼が千切れて急降下していく。ララ皇女の投石だった。
残りは火災が発生している駆逐艦一隻。ゼクローザス搭載火器の弾薬は尽きた。ララ皇女の投石で駆逐艦を沈めるのは無理だろう。何とかなりそうでどうしようもない。
(敵の増援です。注意してください)
クレド様から精神会話が繋がる。アークレイズ級駆逐艦がさらに三隻姿を現す。そして、その駆逐艦からエリダーナが降下していくのが見えた。三機だった。
もはやこれまでか。
クレド様と皇女方を逃がさねばならない。俺は操縦席の扉を開き外へ出る。巡洋艦の甲板上と走り地上へとジャンプした。
その瞬間、アークレイズ級のビーム砲がゼクローザスを貫き鋼鉄人形は溶解して爆発した。
長年連れ添った愛機の最後を見たくはなかったが仕方がない。
俺はクレド様の元へと走っていく。
「申し訳ありません。ここまでのようです。ここは私が何とかしますから皆さんはお逃げください」
何とかできるわけがないのは十分承知している。しかし、自分が盾となり、皆を逃がすことだけしか方法が思い浮かばなかった。
「ハーゲン。無茶を言うな」
「そうですよ。私達にも増援が来ました。ほら」
ララ皇女とマユ皇女の言葉である。
一瞬、何の事だかわからなかったのだが、俺たちの上方にまばゆい光の玉が十数個現れた。それは鋼鉄人形へと姿を変えた。十数機の鋼鉄人形は轟音を立てながら俺たちの周囲に着地する。右肩に天使と竜をあしらった紋章はアルマ帝国の国章、左肩には朱色の盾と剣のマーキングが見える。こいつらは帝国最強と言われる帝都防衛騎士団、そのゼクローザスだった。
「何処からテレポートしてきたんだ」
「帝都ですわ」
「そんなことが可能なのですか?」
「ええ、姉様のお力であれば可能です」
マユ様のいう姉様とは第一皇女のネーゼ様のことで、次期皇帝となられるお方だ。
「一度に十数機も……どれだけの霊力が必要なんだ」
ネーゼ様の巨大な霊力には唯々唖然とするしかない。
帝都防衛騎士団のゼクローザスはその場を一気に制圧した。エリダーナ三機は直ぐに斬り倒された。ゼクローザスの半数は砲撃戦仕様となっており、その一斉射撃で四隻いた駆逐艦はすべて火を噴き爆沈した。
圧倒的戦力差による殲滅戦。中央に所属する鋼鉄人形の圧倒的な力を眼前にして、俺は自分の無力さを思い知らされた。俺一人では何もできないのだと。
「投降しろ。宇宙戦用の火器を地上で使用した。連合法違反だ。しかも皇女殿下へ向けて発砲するなど言語道断だ。罪は重いぞ」
隊長機の呼びかけにレーブル級巡洋艦は降伏信号を発信していた。側面のハッチが開き両手を上げた乗組員がぞろぞろと出てくる。
ここでの戦闘は終了した。
その後、しばらくして三角錐形の艦艇が到着した。
「やっと来た。プランBだ」
ララ皇女がその艦艇に向け手を振る。
その、直線的なデザインの戦闘艦が着陸し左舷のハッチが開く。黒髪の女性が一人迎えに出て来た。あれは確か、第三皇女のミサキ様だ。
「ララさん。マユ姉様。お待たせしました」
「もう少し早く来れなかったのかしら」
「仕方ありません。急な呼び出しなのですから。ところで、早速出発するのですか?」
「ええ、一刻の猶予もありません。直ぐにここを離れてください。さあ、クレド様、ララさん。急いで」
ララ皇女は振り向きマユ皇女を見つめる。
「マユ姉様はどうされるのですか?」
「私は残ります。他の仕事もありますし、後始末もしなくてはいけませんからね。ミサキさん。クレド様とララさんをお願いします」
「わかりました」
ミサキ皇女に導かれ、ララ皇女がクレド様を促してその特殊艦に乗り込む。それはゆっくりと浮上し、空間に飲み込まれ消えていった。
消えた戦闘艦を尚も見送るように空を見つめるマユ皇女。
彼女は徐に口を開く。
「今回の件はネーゼ姉様に全てお話してあるのです。貴方が危機に陥っている事を精神会話にてお伝えしました。そうしたら騎士団をテレポートで送ってくださいました。今もお気持ちは変わらないのでしょう」
そうか、変わらないのか。
想いは通じても現実は変わらない。その虚しさに心が痛む。
俺はかつて帝国最強のドールマスターと呼ばれていた。そして、第一皇女のネーゼ様と恋仲となった。それが皇室の不祥事とされ問題視された。その為、俺は降格され辺境の地へと左遷されたのだ。
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