第6話 対立する勢力
俺たちは連合宇宙軍の重装兵に囲まれた。黒い色の、鎧のような戦闘服を身に着けている兵士だ。この戦闘服はかなりの防御力を持っている。普通に殴る蹴るでは倒せない厄介な相手だ。
連合宇宙軍とは略称で、正式には『アルマ星間連合宇宙空間共同防衛機構』と言う。元々はアルマ帝国中心の組織だったのだが、加盟国が増えるに従い帝国の格は下降していった。過去には強い求心力を持っていたのだが、今では単なる議長国となりさがった。当然、反帝国派が
俺が鋼鉄人形を出しているのを知っていたのか、宇宙軍専用の戦闘人形を3機配置している。この戦闘人形は電機駆動する人型機動兵器で宇宙軍の正式装備だ。霊力を必要としない汎用兵器である。操縦士の技量に関わらず、高い戦闘力を長時間にわたって発揮できる。
「助けて! 少尉殿」
フェオの声がした。
重装兵の後ろには軍服姿の猿人とフェオがいた。フェオは後ろ手に手錠をかけられている。その横にあの店にいた白毛兎のフラウがいた。まだエプロンドレス姿の彼女は縛られてはいなかった。
軍服姿の指揮官らしき男と親しげに話す彼女を見て、俺は自分の間違いに気づいた。フラウは女スパイで皇女方の動向を探っていたのだ。俺は守備隊を呼べと言ったのだが、彼女は宇宙軍を呼んだ。そして、店の表で宇宙軍を中に入れないよう頑張ったであろうフェオは妨害罪とかで拘束されたのだ。俺としたことが、連日の農作業で平和ボケしていたようだ。
「レガラル隊長。約束は守りましたよ。情報料払ってね」
レガラルと呼ばれた猿人はフラウに銭袋を渡す。中身を確認し彼にウィンクすると俺に向かって歩いてくる。俺の手前で立ち止まり首に両手を回しキスしてきた。
「ねえ少尉殿。いえ、元大尉殿。今度は楽しい一夜を過ごしましょ」
「機会があればな」
「それは社交辞令?」
「そう思うか」
「余裕ね。次はきっと誘惑してあげる」
「遠慮しとくよ」
「あら残念。またね。元大尉殿♥」
フラウは軽く唇を合わせ俺から離れた。そのまま森の方へ歩いていく。
「おいフラウ。約束を忘れるなよ。ヒーヒーよがらせてやる」
レガラルが叫ぶとフラウは振り向いた。
「あんたが無事に帰ってきたら考えてあげる。帝国最強のドールマスターに勝てるといいわね。うふふ」
ヒラヒラと手を振りながら森の中へと消えていく。レガラルは完全に頭に血が上ったようでフェオの尻を蹴飛ばす。
「お前は用済みだ。どこへでも行け!」
フェオを解放してしまった。
フェオはフラフラとよろめきながら俺の方へ走って来た。
「少尉殿……」
目には涙をためている。あのサル助に捕まったのだから相当怖かったのだろう。
「おい、クレドを出せ。そうすれば貴様らを解放してやる」
このレガラルという男は嘘八百が十八番のようだ。
交渉するならフェオを解放したりしない。皆殺しにする気なのだろう。俺たちが動かないのにしびれを切らしたのか更に要求してくる。
「そこの鹿がクレドだろう。さあ、こちらへ渡せ」
クレド様を渡す事などありえない。しかし、現状は重装兵と戦闘人形に囲まれていてどうにもならない。
(ハーゲン少尉。よくお聞きください)
クレド様と精神会話が繋がった。
(今からマユ様の法術でそこの重装兵を排除します。貴方はその隙に鋼鉄人形に乗り込んで、宇宙軍の戦闘人形を倒してください。できますね)
俺は頷く。
それを見たマユ様が一歩前に出て両手を振る。するとマユ様からものすごい突風が発生して重装兵を吹き飛ばしてしまった。
俺はすかさず走り出してジャンプし鋼鉄人形に取り付く。そして操縦席の扉を開いて中に乗り込んだ。
正面の扉が閉まりモニターが点灯する。両脇にあるクリスタルに掌を乗せると鋼鉄人形が起動した。
円形の盾を構え実剣を抜刀する。
吹き飛ばされた重装兵が起き上がり体制を整えていく。
レガラルは戦闘人形に搭乗した。奴もやる気のようだ。しかし、戦闘になった場合、ここにいる生身の人間は防御できない。そんな事を考えていると再びクレド様と精神会話が繋がった。
(心配しないで。皆さんは私がシールドでお守りします。貴方は鋼鉄人形で戦ってください。遠慮はいりません)
此処でララ皇女から通信が入った。
「連絡艇が爆破されたのでプランAは失敗だ。プランBへ移行する。30分以内に片付けろ」
「30分後に迎えが来るわけですね」
「そうだ。頼んだぞ、ハーゲン」
「了解しました」
俺は左手に円形の盾を持ち、右手に大剣を抜いて構える。この古代の鎧を着た重装兵を思わせるスタイルは気に入っている。歴史と伝統が凝縮されており多くの人の支持を得ているのだ。
目の前の戦闘人形の名はエリダーナ。この機体は合理主義極まりない設計なのだという。安定性を高める為に重心は低く脚は短い。腕が長くリーチがあり間合いが広い。腕の装甲は極端に厚く肉弾戦に強い。両肩、胸部には火器が内蔵されており遠距離での攻撃力も侮れない。最新の装備と膂力を秘めた新型機なのだが格好が悪い。
大型ロボット兵器は連合内の少年にとって憧れの的であろう。しかし、このエリダーナだけは人気がなかった。
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