第4話 もふもふとおっぱい

 問題は星間連合がどう出るかだろう。

 ラメル王国では全会一致でこの行動を支持するだろう。また、アルマ帝国においても皇帝陛下の指示であれば表立って反対する者はいないだろう。しかし、星間連合はどうなのだろうか。案ずるべきはその部分だと感じた。


 クレド様はアルマの大地を守護する守護神だと聞いている。しかし、その実態は絶対防衛兵器なのだという。過去数度、この大地を汚した侵略者に対し痛烈な罰を与え殲滅させた。現代の兵器でも敵わない圧倒的な力をお持ちだと言われている。その苛烈な戦力が星間連合内で問題となり、クレド様を封印するという形で決着したと聞く。もう500年以上前の話だが概要としては間違いがないはずだ。


「ところで、クレド様を救出した後はどうされるんですか。帝国内ではかくまえないと思うのですが」


 俺の問いにマユ皇女が答えてくれた。


「星間連合外へ亡命していただきます。それなら連合も文句を言えないはずです」

「確かにそうですね。連合外への亡命であれば問題ないかもしれません」

「しかし、それは賭けなのです。この事を連合が認めるか否か」

「賭けですか。勝算は?」

「五分五分ですね」

「その賭けに負けるリスクを承知で陛下はご決断されたのだ。ハーゲン少尉、やるのかやらないのか?」


 ララ皇女が発破をかけてきた。やはりこのお方は武闘派だと思い知らされる。


「愚問ですね。ラメルの獣人は全てクレド様に従うでしょう。私も喜んでお手伝いします」

「良いのか。下手をすれば私達と一緒に反逆罪として投獄されるぞ」

「マユ皇女、ララ皇女とご一緒できるなら本望ですよ」


 俺の返事に皇女様方は満足されたようだ。

 俺は鋼鉄人形を夜通し歩かせた。夜が明けるころには砂漠地帯を抜け山岳地帯へと入り込んでいた。今はお二人は位置を入れ替わっており俺の膝の上にララ様、後ろにマユ様がいる。

 

「夜明けと同時に山中に入れたのは幸運です。目立つ砂漠を暗いうちに走破できました。恐らく正午ごろ目的地に着くと思われます。立ち入り禁止区域ですのである程度憶測で判断しています」

「それで良い」


 膝の上に座っているララ皇女が返事をしてくれた。俺は一つ疑問に思っていたことがあった。

 

「ところで、質問してよろしいでしょうか」

「何だ少尉」

「クレド様を解放できたとして、その後どうされるのですか? 星間連合外への亡命だと言われておりましたが、宇宙船の段取りは出来ているのでしょうか?」

「問題ない」

「宇宙船の運行は厳しく管理されておりますから、宇宙軍を動かすとなると却って邪魔が入りやすいかと思いますが」

「心配ない。お前は私達をそこへ連れていけば良い。後の事は任せよ」

「承知しました。ところで昨夜の酒場での狼藉もこの計画の妨害だったのでしょうか?」

「そうだと思います」


 後ろからマユ皇女が答えてくれた。


「サル助はそこかしこで似たようなことをしでかしておるからな。あ奴らを使えば策略であると悟られにくいのだろう」


 確かにそうだろう。女性への暴行事件と言えばサル助が関わっている事が多い。

 森に入り更に奥へと進む。道がふさがれている場所があり立ち入り禁止の表示がしてある。無視して進もうとすると接触面で火花が散った。結界が張ってあるようだ。


「結界ですね。どうしましょうか。目立って良ければ俺が破壊しますが」

「私が解除しましょう。扉を開けてください」


 操縦席の前方の扉を開く。マユ様は俺の頭に抱きつき胸を押し付けながら前に出る。

 そして計器パネルの腰掛け両手を広げて前方に突き出した。


「侵入を拒む関門よ。その解放を命じます。カーン・アルマ神の御名において」

 

 詠唱を終えたマユ皇女がこちらを向いて微笑んだ。


「もう大丈夫ですわ。お進みください」


 今度はララ様が俺の頭に抱きつき後ろ側へ回り、マユ様は膝の上に座る。

 操縦席の扉を閉めゼクローザスを前に進める。

 今度は何も起きなかった。見事に結界は消滅していた。


「なあ少尉」

「何でしょうララ様」

「胸が好きか?」

「それはどういう意味でしょうか?」

「いや、だから女性の胸が、おっぱいが好きなのかと聞いておるのだ」

「そういう質問をされても困るのですが」

「好きか嫌いか、はっきりと返事をしろ」

「二者択一で返答するなら好きとなります」

「やはりな。男はみなおっぱい星人だ。この裏切り者」

「裏切り者などと仰せられても困るのですが」

「貴様と私は御前試合で戦った仲ではないか。命を懸け戦った強敵ともであろう。そうだな。それなのに、先ほど、姉様の胸を押し付けられているときの呆け顔は何だ。私はしっかりと見ていたぞ。そして今、私の胸を押し付けた時には何の感慨もない顔であった。ぐぬぬぬぬ」


 今度は頬の毛を引っ張りグリグリとこね回し始めた。


「ララさん。少尉がお困りですよ。ララさんの胸もすぐに大きくなりますから。皇族の女性は皆胸が豊かなのです。あなたも大丈夫ですよ。ご安心なさい」

「本当に? 姉様方は胸が豊かなのに私だけこんなにぺったんこなのは辛いです。すぐに大きくなりますか?」

「あと10年ほどお待ちなさい。そうすれば、ララさんの胸もきっと大きくなります」

「10年も待てません」


 再び俺の頬をグリグリこね回す。


「ララさん。それ以上ダメです。もし我儘を言うならここで置いていきます」


 少し厳しいマユ様の言葉に急に大人しくなる。


「申し訳ありません。姉様」

「私はいいですから、少尉に謝罪しなさい。あなたの我儘で本当にお困りでしたから」

「悪かった。ハーゲン少尉。謝罪する。ごめんなさい。もう我儘は言わない」

「了解しました」


 俺は謝罪の言葉を受け取った。あのような些細な事が劣等感につながるとは可愛らしい。強烈な強さを誇っていても中身はやはり子供なのだ。このような可愛らしく純粋な方たちが国の中枢にいることを誇らしく思うのだった。

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