第7話 戦闘開始

 レガラルが搭乗したエリダーナの三つ目が輝く。奴は立ち上がり実剣と盾を構えて戦闘態勢に入った。両脇に控えた残りの二機はビームライフルを構えている。重装兵は後方へと下がり銃を構えている。


「帝国最強だか何だか知らないが、そんな骨とう品など最新型のエリダーナにかかればイチコロよ」


 威勢の良いレガラルである。

 俺は盾を正面に構え突進して体当たりをかます。重心が低く安定が良いよいはずのエリダーナが簡単によろけ尻餅をついた。頭部の機銃を射撃してきたのを盾で防ぎ後退する。


 奴は立ち上がって吠える。


「剣で打ち合え。この卑怯者!」


 奇襲で機銃をぶっ放す奴に言われたくはない。今度は剣を突き出し一気に間を詰める。エリダーナはろくに回避もせず盾で受けるが、奴の盾には大穴があいた。

 レガラルは剣を振り回しながら突っ込んできた。大振りで軌道の乱れた剣筋は、剣の素養が全くないことを伺わせる。剣を盾でいなし地面に突き刺さったところで剣の腹を踏んでへし折る。

 そこで脇に控えていた二機が乱入してきた。


 ビームライフルを射撃してくるのを盾で受け止め拡散させる。


「ビームライフルで撃ち抜けない」

「ならば実弾射撃だ」


 三機のエリダーナは胸部の装甲を開いた。中からガトリング砲が顔を出す。三機一斉に射撃してきたのだが、素直に標的になってやるつもりはない。

 俺は俊足の技を使い、残像を残しながら瞬間的に間を詰める。射線は残像を貫き俺にはかすりもしない。

 俺はレガラルの乗るエリダーナのコクピットを剣で貫いた。

 その剣を引き抜き、左にいるエリダーナを袈裟懸けに斬り倒す。実剣を抜いたもう一機に対しては盾の打撃で剣を弾き飛ばし、胴を横一線に斬り裂いた。そいつは腰から下を残して上半身だけが仰向けに倒れた。

 胸部のコクピットが開き操縦士が出てくるのだが、素早く駆け寄ったララ皇女の回し蹴りが頭部に決まり、首がありえない角度に折れ曲がる。そいつは痙攣した後動かなくなった。

 周囲を見ると、十数名いた重装兵は全て倒れていた。あるものは首が飛び、あるものは腕や脚が千切れていた。


 ララ皇女から通信が入る。


「ハーゲン、よくやった」

「こんなものでしょう。個別の格闘戦においては帝国のドールマスターの方が優勢です。ところで重装兵は?」

「私が片付けた」

「お見事です」

「まあな」


 俺なら素手で倒す事はできない。

 常人をはるかに超えるララ皇女の戦闘力には脱帽するしかない。


 そこで今度はクレド様から精神会話がつながった。


(ハーゲン少尉。3時の方向から艦砲射撃です。着弾まであと5秒、4、3、2、1)


 命中直前で俺は後ろへ下がり皇女方の前で姿勢を低くする。三機のエリダーナにビームが命中し、激しく爆発する。膨大な熱量が拡散し周囲の木々が燃え上がった。盾で爆風と熱線を防いだところでララ皇女からの通信が入る。


「ハーゲン。3時方向にレーブル級巡洋艦だ。とんでもないのを隠していやがった」


 とんでもないもの。そう、とんでもないものだ。

 空中に突如現れた宇宙軍の巡洋艦である。光学迷彩を使用していたのだろうか、全く見えていなかった。銀色でエイを思わせる平べったい形をしており尻尾部分が長い。胴体部分には何本も細長い砲身が突き出ている。付近にエリダーナ三機を輸送した艦艇がいるとは思ったが、こんな戦力だとは想定していなかった。俺たちの現状戦力では歯が立たない。


「ララ様、あれが親分ですか」

「ああそうだ。あんな代物を地上に降ろすとは酔狂だな」

「全くです。連合法を無視していますね」

「無視してでも潰したいものがあるのだ」

「クレド様ですか?」

「ああそうだ。確保できなければ破壊するつもりなのだろう」

「困りましたね」

「ああ」

「あれ、どうしますか?」

「黙らせるしかなかろう」

「どうやって? 石でも投げますか?」

「おおそれだ!」


 ララ皇女は何か思いついたようだが、俺は悪い予感しかしなかった。


 巡洋艦の砲撃は強烈だ。宇宙空間で敵艦を沈める為の装備である。これを地上で使用するなど正気ではない。威力が大きすぎる為、連合法で禁じられている行為となる。

 皇女方が巻き込まれては困るので即移動する。斜めに走りながら皇女方から離れていく。再びクレド様から精神会話が繋がった。


(艦砲射撃来ます。3秒前、2、1)


 立ち止まり構えた瞬間ビームが着弾したが盾で拡散させた。膨大な熱線が周囲に放射され、周囲数百メートルが燃えあがる。俺なら方向とタイミングさえつかめば砲撃を無効化できる。霊力を消費するので多用できないが、これで時間稼ぎはできるだろう。

 俺がせっかく注意をひきつけているというのに、ララ皇女は石を拾い本当に投げてしまった。剛速球が約5000m先の巡洋艦に突き刺さるのが見えた。


「ララ様、石では巡洋艦の装甲は貫けません。かえって射撃の目標にされます。控えてください」

「阿呆。敢えてこちらが囮になっているのだ。貴様はアレに接近して黙らせろ」

「撃たれたらどうするんですか。さっき見たでしょ。人形の火力とは桁が違います」

「姉様が法術で盾を組んだ。お前の盾よりは強力だ。こっちは気にせずに行け!」

「行けと言われましても」

「奥の手があるんだろ。知っているぞ」

「アレは霊力の消費が大きすぎるのでなるべく使いたくないのですが」

「つべこべ言わずに行け。後は何とかする」

「了解しました」


 奥の手とはテレポートの事である。誰にでもできる技ではない。可能なのは上位のドールマスター一握りである。このゼクローザスでテレポート出来るのは目視できる範囲。つまり、眼前の巡洋艦は距離5000メートル程度なので、いつでも艦上へジャンプできる。俺がやりたくない理由は、テレポートを使うとチャージしていた霊力を使い果たし、稼働時間が極端に短くなるからだ。バックアップする他の戦力がない状況では使用できない。


 しかし、ここはやるしかない。

 俺は腹をくくった。


 巡洋艦がまた射撃した。


 今度は俺ではなく皇女方を狙った。あんな高出力の砲で生身の人間を狙うなど、正気の沙汰ではない。

 ビームは真っすぐに皇女様へ伸びるが、直前でシールドが干渉しそのまま跳ね返した。反射したビームが巡洋艦の艦体に突き刺ささるものの、向こうも対ビームシールドが展開しているようで光線は四散した。

 さすがはマユ皇女だ。

 高名な法術士の高度な技術に感嘆する。ララ皇女はと言うとまたまた石を拾いぶん投げる。その石は見事に巡洋艦の装甲に突き刺さる。

 巡洋艦に向かって石を投げる皇女と、生身の人間を対艦用高出力ビーム砲で撃ってしまう宇宙軍の双方にあきれてしまう。


 俺はゼクローザスを全力で走らせる。最高速に達したところでクリスタルに全霊力を注ぐ。ゼクローザスはまばゆい光に包まれ、瞬間的に巡洋艦の直上数メートルの位置にジャンプしていた。そのまま艦上に取りつき艦体に大剣を突き刺す。そして残りの霊力を放出した。巡洋艦は全体が一瞬光に包まれる。ぐらりと揺れ少し傾きながら徐々に高度を下げ始めた。

 今の一撃は内部の電子装備を破壊する技なのだが、十分効果があったようだ。巡洋艦はさらに高度を下げ軟着陸した。

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