ひとりぼっちのXmas

流々(るる)

ひとりぼっちのXmas

 この季節、街がイルミネーションで彩られ輝きを増し、華やいで見えるのはここでも同じだった。

 信号を待っている間にもクリスマスソングがどこからか聞こえてくる。

 やっぱり、Whamワム!のLastラスト Christmasクリスマスが一番好き。

 私が生まれる前の歌だけれど、素敵な歌は時を超えて語り掛けてくれる。


 吹き抜けにある大きなツリーの下には、健太ケンがもう立っていた。

 真面目な彼は、いつも待ち合わせ時間より早く来ている。私だって、今日は遅れずに来たのに。

「ごめんなさい、待った?」

 彼は優しく微笑みながら私の腰へ腕を回す。

「気にしないで。じゃぁ行こうか」

 背の高い彼を少し見上げながら、ゆっくり歩きだした。

「何処でディナーするの?」

「ロティサリーチキンの美味しい店を予約してあるんだ」

 クリスマスと言えば七面鳥ターキーのイメージがあるけれど、ママはハムやローストビーフを作ってくれた。一人で暮らし始めた今年からは、ロティサリーもいいかもしれない。あのパリパリの皮が大好きだし。


 お店はカジュアルな感じでも騒々しさはなく、今日にふさわしい雰囲気だった。

 席に通され、健太がワインをボトルでオーダーする。

 透明だったグラスが濃赤色に変わり、二人で過ごす初めての冬クリスマスに乾杯をした。


「はい、プレゼント」

 シックなリボンに飾られた、細長い包みを渡す。

「ありがとう。俺からも――どうぞ」

 彼からは可愛いリボンが掛けられた、小さな箱を受け取った。

「開けてもいい?」

「もちろん」

 彼の返事を待たずにリボンをほどき始めていた。だって、Noノーと言うはずないもの。

 箱を開けると、ホワイトゴールドのチェーンにシンプルなデザインの小さなダイヤがついたネックレス。

「うわぁ、うれしいっ」

「いつもネックレスしてるから、俺からのプレゼントもしてもらえたらなぁ、と思って」

 私よりも健太の方がうれしそう。


 シーザーサラダが運ばれてきて、大きなパルミジャーノを抱えながら目の前で削ってくれた。

 チーズの香りが鼻に抜ける。


「今着けてもいい?」

「もう、君のものなんだからご自由に」

 両手を首の後ろへ回し、母からもらったネックレスを外す。

「それと一緒に着けても似合うように、シンプルなものを選んだんだよ」

「いいの。これだけをつけてみたいわ」

 チェーンの留め具から手を離し、少し胸を張るように見せた。

「よかった。似合ってるよ」

 彼の喜んでくれる顔が、私にとって一番のプレゼントになる。

「私のも開けてみて」

「おっ、ネクタイだ。いい色じゃないか」

 お店の人にゆっくり説明してもらいながら選んだネクタイだから、気に入って使って欲しい。

「大丈夫かな」

 思わず心配そうな声を出してしまった私に、優しく微笑んでくれる。

「大丈夫。大切に使わせてもらうよ。ありがとう」


 きれいな焼き色のついたロティサリーチキンを切り分けてもらった。

 ハーブの香る一切れを口に入れると、皮目の香ばしさとジューシーな肉のうまみが口いっぱいに広がる。

 ワインで少し酔った私の話を聞きながら、唇を人差し指でなぞるようにあごの髭に手をやる。それが彼の癖。

 そんな彼の左手を見ていた。





 今日はクリスマスイブ。

 ここ日本では、イブの夜は恋人同士で過ごすらしい。

 それもすてきかもしれないけれど、私の国アメリカでは家族で過ごすのが当たり前だった。


 今夜、健太kenは来ない。

 ネクタイは自分で買ったことにするから、と言っていた。

 二日前の楽しかった時間は私の胸の中にだけある。

 自分で選んだ、ほんの少しの痛みと共に。


 I close my eyes目を閉じて and gently touch the胸元のネックレスに necklace on my chestそっと触れてみた.

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