口移しでもいいですよ♪
それは三月下旬の昼休み。
そもそも何故俺たちがこんな生活をしていたかと言えば、それは母親同士の仲が良過ぎたからだ。
ママ友以前からの親友だった三人は、ほぼ同時期に結婚して子供を授かった。
だから俺たちは出会い、そして本物とは程遠い偽の家族となり、俺には偽妹が出来たのだ。
当時から兄意識のあった俺は、偽妹たちをそれはそれは可愛がったものだ。
偽妹たちも俺を本当の兄のように慕ってくれていた。
同い年の夢奈とは、三ヶ月程度の差しかないが、それでも俺は彼女の兄だったのだ。
ーーとまぁそんな感じで。
俺と夢奈は学校が同じというだけでなく、学年すらも同じだったわけだ。
だが、当然俺たちの関係を正確に知っている生徒は少ない。生き別れの兄妹だとか、親同士の連れ子だとかはよく言われることだ。
というのもーー。
「兄さん兄さん。今日から食べさせあいっこしませんか? もしくは口移しでも良いですよ♪」
「いや自分で食べるから良いよ。というか、そんな事してたら昼休み終わっちまうだろ?」
「何を言うんですか。仲のいい兄妹はみんなやってる事ですよ?」
「仮に、本当に仮にそうだとしてもだ。よそはよそ、うちはうちだ」
超絶ブラコン発言を繰り返す夢奈に、クラスメイトは温かい眼差しを向けている。もう慣れてしまっているのだ。
この学校は小中高一貫なので、同学年の間では珍しくない光景となっているのだ。
要はもう気にしていない。この兄妹はこうじゃなきゃと思われているのだ。
「大体そういうのは恋人同士でするものであってだなーー」
「はい。兄さんとはすでに恋人同士みたいなものですから、何も問題はありませんよね」
「兄妹と恋人では天使と悪魔以上の違いがあると思うが……」
「細かいことは気にしなくていいんですよ兄さん。私と兄さんが相思相愛なのは事実なんですから♪」
「妹が好きなのは当然だと思うけどな」
「では後は結婚ですね。任せて下さい兄さん! 必ず二人の一生に残るような式にしてみせますっ!」
「そんなところで頑張らなくていいから……」
こんな発言も日常茶飯事。もはや誰も気に留める者はいない。
そんな訳で俺と夢奈の関係は、兄妹以上の恋人未満としてクラスメイトに認知されていた。
ーーだが。
それを良しとしない者が二人いる。
「こんにちはー! おにぃはいますか?」
「桜空ちゃんと柚空ちゃんだ。はぁ、今日も可愛いなぁ……」
「あの、にぃには……?」
「あっ、ごめんね。新井くんだよね? うん。中にいるよ」
「おっ邪魔しまーす! 今日も来たよおにぃ!」
「お邪魔します……にぃに、一緒にご飯」
言うまでもないが、桜空と柚空の双子姉妹の二人だ。
「(もう来てしまいましたか……)」
「ん? なんか言ったか夢奈?」
「いえいえ、何でもないです兄さん。では桜空と柚空も来ましたので、いつも通りでいいでよね」
どこか誤魔化された気はするが、大したことではなさそうだ。
夢奈はささっと机と椅子を四つ並べて、ちゃっかり俺の隣に座った。
「あぁーー! またおねぇが横に座ったぁー!」
「夢奈ねぇは、いつもずるいです……」
「んん〜? 一体なんのことやらぁ〜ですよ」
「いっつもおにぃの隣なんだもん! いい加減そこ譲ってよっ!」
「柚空も……にぃにの隣がいい……です」
「知りませんよぉー。私と兄さんは相思相愛なんですから、兄さんの隣は私の特等席なんです」
歳の差は一つしか違わないが、流石に大人気ない気がする。もう少し妹たちに譲ってあげればいい姉なのになぉ……。
まっ、今こそ兄として注意する時だな!
「夢奈。お前はお姉ちゃんなんだから、もう少し妹たちに優しくしなさい」
「兄さん絡みでなければ優しくしてますよ? 兄さんだけは特別なんです! 二人だって兄さんの事になれば絶対譲ってくれませんよ?」
そうですよねと、夢奈は二人に視線を向ける。桜空と柚空は同時にコクンと頷きーー。
「当たり前だよ。おねぇにも柚空にも譲らないもんね!」
「夢奈ねぇにも……桜空ねぇにも譲りたくないです。だってーー」
「「おにぃ(にぃに)と結婚するのはボクなんだから!(柚空です……)」」
「だ、そうですよ兄さん。なので私も絶対に譲ったりなんてしません」
「………………」
ーーざわざわざわざわ。
そういえば桜空と柚空との事は、クラスメイトたちは知らないんだった……。
「えっ、桜空ちゃんたちも?」
「銀杏が新井の妹だよな? じゃあ問題ない?」
「で、でも二人も『おにぃ』とか『にぃに』って言ってなかった!?」
「てことはあの二人も妹? 新井たちの家系はどうなってんだ?」
夢奈の電波系な発言に慣れてた連中も、双子までもが同じだと分かり混乱している様子だ。
「あのな……みんなの気持ちは嬉しいけど。俺はお前たちを妹として好きなのであってだな……」
「兄さんのその価値観は私が修正してみせます!」
「そもそもボク達とおにぃの間に障害はないじゃん」
「にぃには気にし過ぎです……」
「べ、別に兄妹だから結婚出来ないとか言ってるのではなく……」
もちろん障害がないことは分かってるし、その気になれば結婚は可能だがーー。
「感情の問題なんだよ。俺はお前たちを妹としてし見れないから……」
「大丈夫です兄さん! 私と初夜を共にすればそんなことすぐ解決します!」
「いやいや、なんでそうなるわけ? なんで色々大事なことすっ飛ばしちゃうの!?」
そもそも初夜は夫婦間での初めての事であってーー。
「ならまずは妹としての初夜をボクとしようよ! そして結婚後もボクと初夜しよ!」
「妹と初夜しないよ!?」
「にぃに……柚空のぜんぶを貰って……?」
「ゆ、柚空……そいうことは気軽に言ってはいけません!」
柚空は普段からあまり表情豊かではないが、今は火照ったように頬が赤くなっていた!
ちゃんと意味を分かって言っていたようだが……。
「柚空も……もう大人なんだから、ね?」
「っ!?」
性知識が小学生で止まってそうな柚空だったが、どうやらそういう訳ではなかったようだ。
「そうだよおにぃ! ボクたちだってもう高校生なんだから。おにぃといっぱい抱きしめあってキスすれば子供だって出来るんだから!」
「「「えっ?」」」
「んっ? ボクなんか変なこと言った?」
何か違和感ある発言した筈なのに、本人はまるで自覚がないようでーー。
「え、えーと桜空? もしかして抱きしめあってキスさえすれば子供が出来ると思ってるの?」
夢奈が俺たちが感じた疑問を代表して尋ねてくれた。
「えっ? だってそうなんでしょ?」
桜空はキョトンとした表情で予想通りの回答をしてくれた。
まさかというか、性知識が小学生で止まっていたのは桜空の方だったようだ。
「ーーって、というかお前ら! 女の子がこんな所で初夜とか子作りの話をしてはいけません!」
色々と驚きはあったが、そもそも教室内でしていい話ではない。早々に切り上げるように促して、ようやく昼食を取ることが出来た。
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