ボクはこれが気に入ってるんだから

 白井家でも各部屋が与えられている俺たち偽兄妹。

 今でこそ広いが、双子が生まれてくる前の白井家は狭い一軒家だった。つまり寝室と呼べる部屋は一つしかなく、だから家族全員が川の字で寝ていた。


 そのせいなのか、引っ越して二階建ての一軒家に住むようになった現在も、その家庭内ルールだけは継続していた。

 何故かといえば、単純に双子がそれを望んだためだ。因みに現在の白井家では、両親と偽兄妹は別々の部屋で川となっている。


 さらに唐突だが俺の偽妹に裸族はいない。

 それに近しい行動を取った昨晩の夢奈とて、別に好きで裸体を晒すような変態ではない。

 だからという訳ではないが、寝る時は当然パジャマを着て眠る。


 例えば柚空。

 彼女はもっぱら着ぐるみパジャマを愛用している。今のお気に入りは『うさちゃんパジャマ』で、前回は『黒猫パジャマ』を着用していた。


 例えば夢奈。

 彼女は特徴こそないが、基本的にはラフな格好で眠る。冬だろうと薄着で眠る夢奈は、何故かそれで風邪を引くようなこともなく、今日に至るまでラフ一択であった。


 まぁここまでは何も問題ない。

 問題があるのは桜空のパジャマである。いや、あれはパジャマとは言わない。


「なぁ桜空。いい加減その格好をやめてくれないか?」


 もう何度説得したか分からないが、本日も一応形だけでも説得しようと思う。


「いいじゃん! ボクはこれが気に入ってるんだから」

「別に他の家ならいいよ。けどここはダメだろ……」

「にぃに。無理……桜空ねぇはやめないです」

「そうですよ兄さん。正直に言えば私は桜空が妬ましいです。それを私に譲って欲しいくらいにはです!」

「いや、そんなこと言われても……。やっぱり裸ワイシャツはダメだろ? 一緒に寝るのに……」


 桜空のパジャマーー絶対違うーーは俺の着古したワイシャツによる『裸ワイシャツ』なのだ。

 夢奈が欲しいと言ったのも、俺のワイシャツだったからだ。

 一応ショーツは履いているのだが、あとはワイシャツ一枚しか着ていないのだ。

 そんな年頃の偽妹とだよ? 一緒に川の字で寝るんだよ?


「そんな状態の妹と寝るのは流石に……」

「今更じゃないですか」

「そうだよおにぃー」

「にぃに……柚空も『裸ワイシャツ』したら……恥ずかしくないですか?」

「柚空ってたまに変なこと言うよな」


 まぁ確かに今更だし、俺が変な気を起こさない限りは大丈夫だ。三人も寝込みを襲うことは決してしない。

 だから次の問題へ移行しよう。


「それで……布団が一式しかないのは何故でしょうか?」


 普段というか、両親がいた時ならばしっかり四人分用意したのに、今回は一人分。

 言うまでもなくそういうことなのだろう。


「みんなで一つの布団で寝るんですよ兄さん♪」

「いや無理だろっ!」

「大丈夫ですよ。桜空と柚空は体が小さいですから」

「無茶だ無茶! どうやって寝るんだよ」

「もう場所は決めてるよおにぃ!」

「にぃにが真ん中……です」

「私が兄さん右で、桜空が左です」

「柚空は……にぃにの胸の上……です」


 偽妹に囲まれて、もとい埋もれて寝ろというのか?

 ーーここは楽園なのか?


「ちゃんと理由もあります。残念ながら、姉妹の中で一番体重があるのは私です」

「逆に柚空が一番軽いから俺の上ってか?」

「はい♪」

「おにぃが息苦しくなって眠れないもんね」

「それに桜空が上になるには、少し服装が過激ですのでやめさせました」


 なるほど。

 一応はよく考えているみたいだ。流石に裸ワイシャツの桜空が上ではすごく気になってしまうだろう。

 その点、うさちゃんパジャマの柚空であれば、過激ではなく寧ろ子供っぽいパジャマなので、気になることはない。


「それにある意味じゃ眼福ですよね?」

「眼福?」

「顔を上げればマスコットキャラが胸元で眠っているんですよ?」

「………………」


 ーーなんか色々妄想中。

 ーーなんか色々妄想中。

 ーーなんか色々妄想中。


「よし、それでいこう」

「にぃに……柚空でいいの?」

「柚空しかいない! 柚空以外なんてこの場面ではあり得ないッ!!」

「決まりましたね。ではもう寝ましょう」

「ああ〜あぁ……明日から学校なんだぁ……」

「桜空ねぇ……宿題やりましたか?」

「えっ……あ、あれ? そんなのあった?」


 柚空が無言でこくんと頷き、桜空は少しずつ顔色が悪くなる。


「ね、ねぇ……柚空……」

「ダメ……です……」

「そんな! ぼ、ボクそんなの知らなかったもんっ! それに双子なんだから助けてくれてもーー」

「関係ない……です。自業自得……」

「そ、そんなぁぁ…………」


 そして桜空が眠りに着く頃には、すでに俺たちはぐっすり眠っていたという。

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