そういえば桜空が告白されたそうですよ兄さん

 白井家を出た俺たち四人は仲良く、そう仲良く登校していた。

 同じ学校の生徒や他校の生徒。会社勤めの若いサラリーマンなどの視線が痛い。

 両手では収まりきらない花を持った俺が羨ましけしからんのだろう。

 もちろん俺自身も優越感のようなものが間違いなくある。それは否定しないし、寧ろ変な男が寄って来ないのは良いことだ。


 いずれは……偽妹たちも独り立ちして好きな男の一人も出来るだろう。悲しいことだが、偽妹の幸せを祝わない訳にはいかない。


 ーーだが、それとこれとは別だ。

 仮に夢奈たちが男を連れてきたら、まずは相応しいかどうかしっかりと吟味する。

 いや、そもそもこの学校の生徒なんかに、俺の可愛い偽妹を渡すつもりはない。


「そういえば桜空が告白されたそうですよ兄さん」

「な、なにゅっ!?」

「断ったけどね!」

「そうか……脅かすなよ夢奈……」

「別に付き合ったとは言ってませんよ?」

「でも心臓に悪いわ」


 夢奈は告白されたことはない。

 何故なら同い年の俺にべったりくっついているからだ。そのため、どうしても夢奈に近づけないらしい。

 たまにチャンスがある時に呼び出そうと試みる者もいるのだが……。


『えっ……行きませんよ? 同級生とはいえですよ? 男と二人きりなんて危なくてムリです。第一私には兄さんがいますから交際はお断りです。というか同級生なんですからそれくらい知ってますよね? なのに告白しようとするんですか? 放課後屋上ってど定番ですから間違いないですよね? なので初めからお断りしますね』


 ーーと、捲し立てられた被害者からのタレコミがあった。


 それ以来、夢奈に告白しようと試みる猛者は現れない。

 けれど桜空と柚空は違う。

 学年が違うため、俺という存在を知らない者が多いのだ。


 桜空は甘えてほしい系女子。柚空は守ってあげたい系女子として人気が高い。

 二人の小柄な体型も相まって、愛らしい小動物のように感じるのだろう。

 故に告白を試みる者は結構いるのだ。まぁもれなく全員振ったらしいがな。


「因みにどんな人だったんだ?」

「ん? なんか上級生のナントカさんって人だよ?」

「桜空ねぇ……相葉さんです……」

「そうそうそんな名前っ!」

「相葉って確か三年のバスケ部だよな?」

「知ってるんですか兄さん?」

「いや知ってるも何も、今バスケ部のエースとか言われてる奴だぞ?」


 キョトンとする二人を見て、俺は少し呆れてしまう。どうも全く興味がないからか、全く記憶にない様子だ。


「ふーん? だからあんなに背高かったんだね」

「まるでバスケしてるから背が高いみたいな言い方になってるぞ?」

「柚空は知っていたんですね。桜空の方はすぐに名前を忘れてみたいなのに」

「ゆ、柚空? ま、まさかお前は……」

「告白……されました……。そして断りました……」

「「えっ……?」」


 俺と夢奈は思わず声を上げた。

 まさかの同じ人に告白されたと主張する柚空。それはつまり双子の姉に告白したけど失敗。代わりに妹の方へ告白したことにならないか?


「最低ですね……」

「まぁダメではないけど、ちょっとな……」


 こっちはダメだからあっち。

 そういう考え方が気に入らない。つまりどっちと付き合っても良かったことになる。


「いえ、もしかしたら両方と付き合うつもりで……」

「二股? 双子姉妹を二股? まさかそんなーー」

「片方と付き合って、隙あらばもう片方と合意で付き合おうとしたのかもしれませんよ」

「「「………………」」」


 いくらなんでもとは思う。

 けれど、可能性だけならありそうで怖い。


「桜空。お前が告白されたのはいつ?」

「えっ? うーん……確か先週の火曜日?」

「柚空は?」

「先週の……水曜日……です」

「「………………」」


 なるほど。これは確定だな。

 どっちでも良かったのは間違いない。夢奈の想像した両方という線は、限りなく黒に近いグレーだ。

 正直舐めてるというか、ふざけんなと言いたい。やはり生徒との交際は断固として認めない事にしよう。


 そして相葉ロリコン屑野郎。

 お前には何らかの制裁を与えなくてはな。



 ーーその数日後。

 学校の掲示板には相葉と、相葉が複数付き合っている女子生徒との写真が何枚も貼られていた。

 写真は五十枚くらいあり、女子生徒の数は八人以上いる事は明らかであった。

 八股以上かけた相葉に学校中が失望し、女子生徒たちは全員離れていったという。

 撮影者は未だに判明していないそうだ。


 因み、相葉と付き合っていた女子生徒は、全員が比較的小柄な体型だった。

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