兄さんに喜んでもらいましょう!
俺ーー新井悠馬は部活動をしていない。
もちろん委員会などという学校組織にも所属していない。
それは何故か? 偽妹との時間が何よりも大事だからだ。
彼女たちがいずれ独り立ち、または悲しいがお嫁に行くまでは一緒に過ごしたい。
俺も相当なシスコンであると自覚はしている。
だが、それが何だと言うのか?
「さぁ桜空に柚空! 私たちで最高のお菓子を作って、兄さんに喜んでもらいましょう!」
「にしし、ボクのチョコクッキーでおにぃのほっぺが落ちるかもね!」
「にぃには、柚空のシフォンケーキでメロメロ……です」
「もちろん私の惚れぐ……ではなく、愛情のこもった抹茶プリンで幸せにしてみせます!」
こうして俺の誕生日プレゼントを作る偽妹たちを観察すること以上に、大切なものなどある筈がない!
「うん、夢奈は惚れ薬入れるのやめようね。柚空、悪いけど監視して」
「夢奈ねぇ……そういう事になりました」
「ああ……兄さんの先手が早いです」
いくらシスコンでも、血の繋がりがなくても、偽妹相手に惚れるわけにはいかない。
俺は兄として好きなのだから。
「ま、まぁ気を取り直して作りましょう」
「「おおーー!」」
新井家の台所はかなり広く、三人が同時に作業しても問題ない。いつもは夢奈が料理をしているので、ここまで広くなくてもいい。
桜空と柚空が台所に立つ時は、必ず俺の誕生日の時だけなのだ。
約三年前の誕生日の時。
夢奈は俺に手作りの抹茶ケーキを作ってくれた。俺は当然それを美味しく頂いた。
その光景を見ていた双子姉妹は、激しく嫉妬したのだ!
例年は三人が衣服か何かを選んで、それをプレゼントしてくれていた。
しかし夢奈の抜け駆けが原因で、次の年からは手作りスイーツを振る舞うのが、彼女たちの間で決定づけられた。
二人は料理経験があまりないなか、スイーツ作りだけはマスターした。
夢奈は普段から料理をしているため、大抵のものを作ることが出来る。
これに対抗するために、双子は一時協力体制を敷いて、たった一年で人並み以上の技術を身に付けた。
もちろん夢奈も黙ってはいない。更に料理の腕に磨きを掛けて、今やプロの料理人も唸るほどだ。
去年から誰が一番美味しかったかと、おれが審判を下す制度まで出来てしまった!
本当は全員が美味しいと、同列優勝させてあげたい。
だがそれを偽妹たちは望んでいない!
故に正当な評価を下さなくてはならないのだ!
「さて、去年は夢奈が一番だったが……」
やはり経験が豊富な夢奈は強い。
桜空と柚空も頑張ってはいるが、追い付くにはもう少し時間が必要だろう。
「わわっ! ゆ、柚空の方からいい匂いがするよ!」
「桜空ねぇも……美味しそう、です……」
「ーーっ! まさか二人がここまで!」
どうやら、思った以上に上達しているらしい。
夢奈の慌てようは、決して演技ではないと確信をもって言える。
さて、今年は誰に軍配が上がるかーー。
三人の偽妹と同居したけど仲良しです! 花林糖 @karintou9221
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