スラップスティックラブコメのガワかぶった重厚な歴史物語

読ませて頂いてる時、ずっとこの言葉が脳裏をぐるぐるしてました。いやなんなんだよこれ! なんでこんな緻密で丹念にこしらえられた設定の上で、こんな笑えて楽しめる物語が展開するんだよ!

あー、ええと、ここから先ただでさえ長文になっちゃうので、キャラがどう、物語がどう、は省略させてください。感想が終わらなくなっちまう。だから一点だけ。「ヒルダとしては嫌い、ヒルデガルドとしては大好き」というセリフ。食らいました。

で、何について長くなるかって言うとですね。設定です。

当方、歴史物語書きです。歴史物語書きって生き物は、言い換えれば「世界設定ガチ勢」です。そんな奇形種がビビるのは、この世界観で「キリスト」の名が堂々と出てくること。これ、ヨーロッパの文化交流史に通じてないと、とても怖くて使えないと思うんですよ。そしてそこから結びつきやすい「実は実在の国のお話なのでは……?」という疑念は、この物語の場合、その真偽ではなく、その重厚な背景によって納得度が高められています。

この世界にいるのは善と悪ではなく、敵と味方ですらありません。利害Aと利害Bとがぶつかる中に、利害CDEが絡む。この点についてはネタバレしなきゃどうしようもないのでネタバレしてしまいますが、「これらの利害関係は、作中ではほぼ解決しません」。やべーって。歴史ってのはまさにそんなもんです。邪悪な魔王を倒して世界は平和になりました、めでたしめでたしなんてことにはならない。それが人の営みってもんです。

そして、だからこそ物語世界にめでたしめでたしは存在するべきなのです。そしてこのお話も、めでたしめでたしで終わるのです。相変わらず世界は複雑怪奇にうごめき続けるけどな!

意味わかんないですよ。世界が単純でなく、難しいものであるという背景に完全に則ったまま、物語はきっちりと、わかりやすく、「しかもその複雑な世界であるからこその展開がなされて」、爽やかな読後感を得るんです。なんやねんこの離れ業。作者氏は化物か。

名前の雰囲気からするに、オーストリアとハンガリーあたりの紛争に何か着想を得てらっしゃるのかなー、という印象はあります。この辺りはヨーロッパにも近世にも明るくない自分ではなかなか検証ができず、歯がゆいところ。ただ、なんにせよこの物語は歴史的なものと物語的なものが恐ろしく高次元で融和している! と、確信はさせられました。しゅごい。

とまあ以上つらつら語ってきておいてちゃぶ台を返しますが、ここまでのことは、実は一言に集約できてしまうのですよ。なのでそいつを書いて、このレビュー終わりにします。つまり、

やばい。

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