5 透明な血のつながり

 翌朝、アーニーは前日と同じ人気のない路地でナオミと会っていた。

「答えを聞かせてもらえる?」と、ナオミがたずねる。

 アーニーは、一瞬目をつむって昨日考えたことを思い返す。そして、ナオミの目を見てきっぱりと答えた。

「ぼくは行かない」

 そういって、アーニーは身構えた。ナオミがどう反応するかわからず、怒ったり取り乱したりするかもしれないと思ったからだ。しかし、彼女はただ大きなため息をついただけだった。

「ロバートになにか言われた?」と、ナオミがいう。

 アーニーは目を丸くした。「時計のこと、知ってたの」

「それが彼の記憶の鍵だということは気づいていた」といって、ナオミは微笑んだ。「父親の意見を聞くチャンスを与えないのは、親としてアンフェアだと思ったの。でも、できれば気づかずにいてほしいと思って細かいことは説明しなかった」

 ナオミの「アンフェア」という言葉に、アーニーはふっと笑った。血がつながっていなくても、夫婦で同じことを考えていたのだ。

「昨日はケーキありがとうございました。それと、わざわざ日本から来てくれたのに、ごめんなさい」と、アーニーは言おうと思っていたことをすべて伝えた。

 ナオミは再び微笑む。「いいのよ。ひと目見たときから、あなたは来ないだろうと思っていた。私よりずっと、あの人によく似てるから」

 アーニーはうなずいた。そして、少しの沈黙が流れる。お互いもう話すことはなさそうだった。

「さようなら」といって、アーニーは家の方へ引き返そうとした。

「あら」と、ナオミがわざとらしくいう。「また会いにきてもいいでしょう? 私たちはもう他人ではないのだから」

 アーニーは再びナオミの方を見る。「血のつながりとは関係なく?」

「そう、として。だめかしら?」ナオミがいたずらっぽく笑う。

 アーニーも笑った。どうやらそれが彼女の本当の目的だったらしい。

「それじゃ、また」と、アーニーは新しくできたおせっかいな友だちにいった。

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透明な血のつながり フジ・ナカハラ @fuji-nakahara

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